空を夢見る少年は自転車で地を駆ける
『魔女の宅急便』(1989)自転車
【作品内容】
魔女の血を受け継ぐ、13歳の女の子・キキ。「魔女は13歳になるとよその町で1年間修業をしなければならない」という古いしきたりにのっとり、満月の夜に黒猫のジジを連れて、旅立つ。途中、嵐に見舞われたものの、立派な時計台がシンボルになっている海に囲まれた美しい街・コリコにたどり着くのだったが…。
【注目ポイント】
主人公のキキが、修行地として選んだコリコの街で出会った少年、トンボが所持する、大きなプロペラ付きの自転車。トンボは飛行クラブに所属しており、人力飛行機作りを研究している。その人力飛行機の機関部として使う予定だったのが、この自転車だ。
空を飛ぶことが夢であるトンボは、かねてより魔法で空を飛ぶキキに興味深々であり、序盤から何度もアプローチをかけてきたが、キキからは煙たがられていた。トンボはキキにパーティの招待状を渡し、キキも一度は行く気になったものの、仕事でのトラブルに見舞われ落ち込み、結局パーティどころではなくなってしまった。
そんなキキとトンボの距離感をぐっと近づけたのがこの自転車の存在である。
不時着した飛行船を見に行こうとキキを誘い、自転車を走らせるトンボ。二人乗りで車道を爆走するシーンは、途中で車と衝突しそうになるアクシデントが起こり、自転車の先端に装着した大きなプロペラによって最後にほんの少し宙に浮き上がるも、プロペラが外れて二人は転げ落ちてしまう。
甘酸っぱいというよりは危なっかしいという表現が正しいかもしれないが、この爆走によって、閉じていたキキの心が一瞬でも解放されたことは間違いないだろう。転んだあとの二人の大笑いは微笑ましい。
エンディングでは、翼と胴体を付けた完成形の人力飛行機に乗ったトンボとホウキに乗ったキキが、空を仲良く飛ぶ様子が描かれる。
人力飛行機は世界各国で今現在でも、研究、製作が、主に大学など何らかの教育・研究機関に所属する団体によって続けられている。記録を目指す者もいれば、純粋に研究対象として人力飛行機を扱うなど、その目的は様々であれど、トンボ同様に自力で空を飛ぶことに情熱を燃やす人たちが世界中に存在している。
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