実は気遣いに溢れた素晴らしい一言
「夢を諦めて死んでくれ。新兵達を地獄に導け。」
これは、調査兵団のリヴァイ兵長が、特攻作戦を躊躇するエルヴィン団長に掛けたセリフだ。
エレンの父グリシャは壁の外の秘密を知る唯一の人物であり、家の地下室にその秘密を隠していることが分かり、その事を知った調査兵団は、エレンの生家に向かうことになる。
しかしそこで調査兵団は罠に掛かり、狡猾な「獣の巨人」率いる巨人の群れと対峙することとなり、全滅寸前まで追い詰められてしまう。
絶望的な状況でエルヴィンは、生き残っている新兵たちと自身を含め、大勢の兵士たちを犠牲にする囮作戦を考案するが、実行する前に強い葛藤と戦うこととなった。
エルヴィンがここまで戦ってきたのは「壁の外の謎を解き明かしたい」という夢のためであり、その夢を諦める決断に揺るぎが生じたのだ。エルヴィンの葛藤を知ったリヴァイは、敢えて残酷な言葉を浴びせ、特攻の実行を促した。
一見非情に見えるリヴァイの発言だが、作中ではエルヴィンとリヴァイの強い信頼関係が繰り返し描かれてきた。そのエルヴィンに死を要求したリヴァイもまた、心中穏やかでなかっただろう。
エルヴィンは調査兵団団長としての“使命”と、人生をかけて追いかけてきた“夢”の間で揺れ動いてしまうのだ。
公に身を捧げた兵士である以上、命を捨てて使命を全うする事が「正しいこと」であることは分かっていただろう。
しかし人間は、他人から与えられた使命を果たす為だけに生きている訳ではない。少なくともエルヴィンは、夢というのは極めて個人的なものを追いかけていたからこそ、ここまで戦い抜いてこられたのだ。
そしてエルヴィンは、その夢を叶える直前のところまで到達していた。この場で闘いを放棄し、エレンの生家に走れば、壁の外の真実を知ることが出来るかもしれないのだ。しかしそれは仲間への、そして人類への裏切りを意味することになる。
夢を捨てるべきと分かっているのに、まだ追いかけたくなってしまう。リヴァイには、そんなエルヴィンの苦しみが理解できたのだろう。だからこそ決断を下す役割をリヴァイが代わりに担った。
そこまで考えると、一見非情に見えるリヴァイのセリフが、実はエルヴィンへの気遣いに溢れた言葉であった事が分かるだろう。
その気遣いがエルヴィンにも伝わったのか、エルヴィンは穏やかに笑い、リヴァイに「ありがとう」と礼を言うのだ。