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多くの人が信じる言説に「NO」を突きつけた『大奥』

大奥徳川家光役堀田真由本人のインスタグラムより

 

血縁を重視する考えは、時に私たちを束縛する。『大奥』でいえば、最初の女将軍となった家光は側室の有功と愛し合うが、有功が子種を持っていなかったがゆえに引き裂かれた。5代将軍の綱吉は父・桂昌院から子作りを強要され、もう何年も生理が来ていないにもかかわらず、毎晩好きでもない男たちに抱かれた。

逆に、人間は血の繋がりに甘んじるケースもある。12代将軍・家慶が実の娘である家定に幼い頃から性的虐待を加えていたのも、その例だろう。家慶には、「家族だから、自分がそうせざるを得ない苦しみをわかって当然」という傲慢があるのだろうし、逆に言えば、家定は「自分さえ我慢すれば、家族の形は保たれる」という心理が働き、その行為を拒否することができない。これを“血縁の業”と言わずして何と言おう。

血が繋がっている家族だから、分かり合えるし、愛し合える。どれだけ傷つけられても、血が繋がっている家族を見捨ててはならない……。そういった未だに多くの人が信じている言説をあぶり出し、そこにNOを突きつけるのが『大奥』だ。

親子(ちかこ)は幼い頃から求め続けた母親からの愛情を与えてもらうことはついぞなかった。代わりに深い愛情で包み込んでくれたのが家茂だ。家定もまた、老中の阿部正弘や大奥総取締の瀧山に救われ、本当の愛情というものを知る。血が繋がっているからといって、愛し合えるとは限らない。一方で、私たちは血が繋がっていなくとも、愛し合うことができる。そういう暗闇の中に差し込む一筋の光を男女逆転の大奥は見せてくれた。

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