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世界のキタノがビートたけし名義で監督した迷作

ビートたけし『みんな〜やってるか!』(1995)

北野武(ビートたけし)
北野武ビートたけしGetty images

監督:ビートたけし
脚本:ビートたけし
出演:ダンカン、白竜、ビートたけし

【作品内容】

カーセックスをしたい!アダルトビデオを見てそんな妄想を膨らませた朝男は、かっこいいオープンカーを買おうと自動車販売店を訪れる。

しかし、金がほとんどない朝男は、悪い店員から欠陥車を買わされてしまう。一応欠陥車でナンパに繰り出す朝男だったが、やっぱり誰からも相手にされない。お金がないと何も始まらないと考えた朝男は、今度は大金を強奪しようと銀行強盗を企むが…。

監督第4作『ソナチネ』(1993)で国際的な評価を獲得した北野武が、「ビートたけし」名義で監督した唯一の作品。

【注目ポイント】

『ソナチネ』(1993)という日本映画史に残る傑作を世に放ち、映画作家としての地位を確固たるものにした北野武。しかし、世界の評価とは裏腹に、国内での興行収入は芳しくなく、なんと公開からわずか2週間で打ち切りになってしまう。そんな進退窮まった北野が、なかばヤケクソ気味で制作した作品がこの『みんな~やってるか!』だ。

本作は、とにかく全編通して「くだらない」の一言に尽きる。ガダルカナルタカがTバックで踊ったり、たけしが透明人間になって女湯を覗いてみたり、果ては球場いっぱいのウ○コが登場したりと、往年のビートたけしの下ネタを煮詰めたような作品になっており、あまりの下品さから公開当時は批評家筋はおろか観客からも黙殺された。

しかし、本作を唯一評価した批評家がいる。それが、淀川長治だ。『その男、凶暴につき』(1989)以来、北野の才能にいち早く注目していた淀川は、本作を「サイレント映画の短編コメディを彷彿とさせる」と賞賛。フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(1963)やジュリアン・デュヴィヴィエの『舞踏会の手帖』(1937)に擬えて絶賛している。

確かに、改めて見てみると、ここまでの内容の作品を破綻なく仕上げているというのは、紛れもなく北野の監督としての手腕の賜物だろう。また、お下劣なように見えて、帝銀事件や三億円事件といった時事問題を巧みに取り込んでいる点も、拭いきれない知性を感じさせる。

なお、北野は本作の制作後、バイク事故を起こし、瀕死の重傷を負う。後年、この事故を「無意識の自殺だった」と振り返る北野。実は本作は、北野のフィルモグラフィを語る上で最も重要な作品なのかもしれない。

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