シシ神のモデルとされる八束水臣津野命(やつかみずおみつののみこと)
シシ神は、「森の精霊」の名で知られる鹿のような見た目を持つ。『もののけ姫』の登場人物たちに多くの混乱と謎を与えるキャラクターだ。
木立の如き角をもつ不思議な獣でありながら、人間の顔にも見える不気味な面立ちのシシ神は、神秘と畏怖の念をさらに高める存在。「新月の時に生まれ、月の満ち欠けと共に誕生と死を繰り返す生命の授与と奪取を行う神」とされており、信じられない程、強力な神である。
シシ神のモデルだと言われているのが、「出雲国風土記」に登場する八束水臣津野命(やつかみずおみつののみこと)。八束水臣津野命は、国引き神話で有名な神様だ。
『もののけ姫』終盤で、シシ神は首を切られたことで暴走を始め、アシタカとサンが首を返すまで、あらゆる生物の命を奪い続ける。これは、八束水臣津野命(やつかみずおみつの)が、片足を切られて大暴れしてしまうという熊野大社の伝承が由来だと言われている。
日本神話の神は多種多様な神、精霊、器を表すが、彼らは善にも悪にもなりうる自然の力であり、ユダヤ・キリスト教など一神教の宗教神よりも人間に近い存在と考えられる。
タタリ神と化す巨大な猪神「ナゴの守」や、イノシシ一族の巨大なリーダーである乙事主といった人間以外のキャラクターは、こうした自然界の強大な力を具現化した存在と言える。
神としてとてつもない力を持ち、畏れ多い存在でありながら、人間の愚かな行為によって彼らは死や苦痛を経験する。本作ではその様子が容赦なく映し出されている。