透きとおった笑顔の裏に葛藤を忍ばせる
女優としての成熟を示す代表作の一本
『そして、バトンは渡された』(2021)
監督:前田哲
原作:瀬尾まいこ
脚本:橋本裕志
キャスト:永野芽郁、田中圭、岡田健史、稲垣来泉、朝比奈彩
【作品内容】
血のつながらない親たちにたらい回しにされ、苗字が4回も変わった高校生3年生の優子(永野芽郁)は、義理の父・森宮(田中圭)と2人で暮らしている。卒業式のピアノ演奏を任された優子は猛練習に励む。一方、「みぃたん」と呼ばれる少女の家に、梨花(石原さとみ)という新しい母親がやって来る。梨花は血のつながらない娘に目一杯の愛情を注ぐが、ある日、突然姿を消してしまい…。
原作は瀬尾まいこによる同名小説。2018年に発表されるなり、じわじわと話題を集め、累計発行部数100万部を超えるベストセラーとなった。メガホンをとったのは『ブタがいた教室』(2008)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)などを手がけた、前田哲。
【注目ポイント】
永野芽郁が演じるのは、幼少期から親が次から次へと変わり、ジェットコースターのような人生を歩んできた女子高生。設定だけ聞くと影のあるキャラクターを想像してしまうが、予想を裏切るように、冒頭から底抜けな笑顔と天性の愛嬌が炸裂する。
物語は過去と現在が同時進行する形式で描かれる。優子が将来や人間関係に悩みながら成長していく過程と、幼少時代に義理の母・梨花と過ごした日々がクロスオーバーして描写されることで、明るい笑顔の裏に隠された、ヒロインの葛藤が鮮明に浮かび上がる。
不器用で心優しい義父・森宮との心温まる交流、岡田健史演じる同級生・早瀬との恋模様も繊細なタッチで描かれ、なんとも心地いい時間が流れる。一方、序盤から伏線が張り巡らされるミステリー仕立ての物語でもあり、凝った展開によって決して飽きさせない。永野は初めて日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞にノミネートされるなど、その細やかな演技は各方面から高い評価を得た。