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米アカデミー賞を制覇した日本映画の傑作は…? 国際的に高く評価されている名作5選。オスカーを勝ち取った邦画をセレクト 

text by 寺島武志

世界共通の文化である映画。毎年素晴らしい作品には、栄誉あるアカデミー賞が贈られる。アカデミー賞を受賞した作品は後世に語り継がれる名作となり、人々の心に生き続けるものとなる。しかし日本映画がアカデミー賞を受賞するのは容易くはない。そこで今回は、米アカデミー賞を席巻した日本映画を5本セレクトして紹介する。(文・寺島武志)

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完成度の高いストーリーと珠玉の音楽で海外の映画ファンを唸らせる

『ドライブ・マイ・カー』(国際長編映画賞)

©2021ドライブマイカー製作委員会

製作年:2021年
上映時間:179分
監督:濱口竜介
原作:村上春樹
脚本:濱口竜介、大江崇允
キャスト:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生、安部聡子、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ

【作品内容】

人気脚本家である音の創作方法は一風変わっている。音が物語を着想するためには、家福とのセックスが必要とされる。音がベッドで口述した物語は家福によって記憶され、彼が語り直した内容を基に脚本が執筆されるのだ。

舞台の上演を終えた家福は、妻の紹介で若手俳優の高槻(岡田将生)と会う。高槻は音がシナリオを担当したドラマに出演経験があり、家福に尊敬の念を抱いている。

ある日、家福はロシアの演劇祭から招待を受ける。音は録音テープを夫に渡し、家福を送り出す。テープには、戯曲『ワーニャおじさん』のセリフが音の声で吹き込まれてある。

家福は愛車「サーブ900」の車内でテープを再生し、妻の声に合わせて、セリフの練習に励むのだが…。

【注目ポイント】

本作は、月刊「文藝春秋」に掲載された村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』の中に収録されたものの1つ『ドライブ・マイ・カー』を、濱口竜介の監督・脚本により映画化させた作品だ。

濱口は、名門で知られる千葉県立東葛飾高校から東大に進学し、在学中、映画研究会に属し、自主製作映画を撮り始めている。

卒業後、映画の助監督などを経たのち、映画監督を養成する東京藝術大学大学院の修士課程に入学。東京藝大大学院では教鞭を執っていた黒沢清に師事する。2008年には修了作品として監督した『PASSION』が、サン・セバスティアン国際映画祭に選出されるなど、学生監督作品としては異例の注目を集めた。

そんな彼の人生を大きく変えた出来事は、東日本大震災だった。被災地の仙台市民の手によって震災の記録映像をアーカイブする「3がつ11にちをわすれないためにセンター」を発足させると、東京藝大は濱口を現地へ派遣。

濱口は震災直後の2011年5月から現地に滞在し、酒井耕との共同監督で、大地震と津波の体験を語る地元住民たちのインタビューを大量に撮影し続ける。これを編集し、映画『なみのおと』(2011年)、『なみのこえ 気仙沼』、『なみのこえ 新地町』(ともに2012年)を製作。このドキュメンタリー「東北記録映画三部作」が高く評価される。

商業映画では、デビュー作『寝ても覚めても』(2018年)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出。2作目に公開された『偶然と想像』(2018年)でも、ベルリン国際映画祭で銀熊賞 (審査員グランプリ)を受賞する。ちなみに同作は、コロナ禍の中、撮影延期や脚本の変更などが繰り返された『ドライブ・マイ・カー』と並行して撮影されたという。

そして難産の末に生まれた本作は、カンヌ国際映画祭の脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞を筆頭に、ゴールデングローブ賞では非英語映画賞(旧外国語映画賞)を、邦画として市川崑監督の『鍵』(1959年)以来62年ぶりに受賞。そしてついにはアカデミー賞で『おくりびと』(2009年)以来となる「国際長編映画賞」に選出される。

2人の幼子のみならず、妻も病で失い、心に傷を負った脚本家の男が、無口な専属運転手の女性と出会い、瀬戸内の美しい風景をバックに愛車のサーブを走らせ、互いに徐々に心を開いていくストーリーと、石橋英子による繊細なサウンドトラックがマッチし、世界的な高評価を受ける。

また、1人の男の再生物語が、被爆地の広島に向かうという設定も、その人生と重なる部分もあり、ロードムービーでありながら、叙情詩的に描かれているところが、本作の名作たる所以だろう。

その後も『悪は存在しない』(2023年)でヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞(審査員賞)を受賞し、日本人監督として黒澤明以来2人目のアカデミー賞と世界三大映画祭(カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン)を制している。

まだ40代中盤の濱口。「巨匠」というにはまだ若すぎるが、これからも世界中で評価される名作を作り続けるだろう。

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