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“世界のクロサワ”として歴史を作る第一歩となった作品

『羅生門』名誉賞(現・国際長編映画賞)

『羅生門』のワンシーン
羅生門のワンシーンGetty Images

製作年:1950年
上映時間:88分
監督:黒澤明
原作:芥川龍之介
脚本:黒澤明、橋本忍
キャスト:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬、千秋実、上田吉二郎、本間文子、加東大介

【作品内容】

平安時代、都にほど近い山中で貴族女性が山賊に襲われ、供回りの侍が殺された。やがて盗賊は捕われ裁判となるが、山賊と貴族女性の言い分は真っ向から対立する。

検非違使は巫女の口寄せによって侍の霊を呼び出し証言を得ようとする、それもまた二人の言い分とは異なっていた……。

【注目ポイント】

日本を代表する文豪にして、35歳の若さでその波乱万丈の人生に自ら幕を閉じた芥川龍之介の短編小説『藪の中』を原作に、タイトルや設定もまた、芥川作品のタイトルから頂いている本作。

平安時代の京都で起きたある武士の殺害事件を軸に、人間のエゴを露悪的に描いたストーリーだが、鑑賞者は都市部に住むインテリ層が中心で、その刺激的な内容には、評論家から批判的な評価もされ、国内で大ヒットしたわけではなかった。

風向きが変わったのは1951年のヴェネツィア国際映画祭。海外メディアがその前衛的な内容を報じ、グランプリにあたる金獅子賞を受賞する。

黒澤自身は映画祭に出品されたことすら知らされず、本作の関係者は受賞式に誰も出席していなかった。トロフィーを掲げる写真を撮りたい主催者側は、ヴェネツィア市内で日本人を探したがいなかったため、“代役”としてベトナム人男性の観光客に金獅子像トロフィーを受け取らせたという信じられないエピソードが残されている。

大映社長の永田雅一も、本作には批判的で、映画祭に出品していることさえ知らされていなかったが、受賞後は手のひらを返したかのように絶賛し、自らの手柄のような態度を示したため、その変節ぶりに、周囲から失笑を買った。

米国でも、本作の評価は高く、当時ロサンゼルスに滞在していた映画評論家の淀川長治は、「リトル・トーキョーにある日本映画専門館のリンダ・リーにハリウッド俳優が連日のように鑑賞に訪れている」とリポートしている。

1952年のアカデミー賞では、名誉賞(現・外国語映画賞)を受賞したが、ヴェネツィアに続き、授賞式には作品関係者は誰も出席しなかったため、代理で出席した日本総領事館総領事の吉田健一郎がオスカー像を受け取り、翌1953年のアカデミー賞でも、美術監督賞 (白黒部門)で松山崇と松本春造がノミネートされ、授賞式には淀川長治が出席した。

本作によって、世界中が黒澤明という才能を知り、“世界のクロサワ”として歴史を作る第一歩となり、複数の登場人物の視点から1つの物語を描くという黒澤作品のスタイルはその後、多くの作品で用いられることになる。黒澤は、映画製作の手法を創造し、確立させたのである。

敗戦で打ちひしがれていた日本人にとって、元気づけられるニュースであると同時に、海外在住の日本人にとっても、誇りを取り戻させた。

その後、海外でリメイク版が相次いで製作され、そして、半世紀以上経った2008年、日本映画として初めて、角川映画と映画芸術科学アカデミー、東京国立近代美術館フィルムセンターとの共同事業でデジタル復元され公開に至り、この3者は全米映画批評家協会賞による「映画遺産賞」を受賞した。

(文・寺島武志)

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