イケメン俳優のくくりにとらわれない卓越した演技力
●磯村勇斗
飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の俳優・磯村勇斗。実は小劇場出身の役者で、苦労人である。
20代は小劇場を中心に活動し、演出家・伊藤靖朗の舞台に出演したことがきっかけで芸能事務所に所属することになる。その後『仮面ライダーゴースト』(2015)や連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)に出演した頃から注目を集めるようになった。
磯村勇斗の最大の魅力は、イケメン俳優というくくりに甘んじない、演技力だ。誤解されないように言っておくが、何もイケメン俳優をバカにしているわけではない。磯村は桁違いに芝居が上手すぎる。彼の役者としての魅力を解説するにあたって容姿の美しさのみに言及するのは不当であるというわけだ。
●磯村勇斗の演技を堪能するためのお勧めの一本
『月』(2023)
石井裕也監督が「相模原障害者施設殺傷事件」をもとに製作した衝撃作『月』。
深い森の奥にある重度障害者施設で働くことになった堂島洋⼦(宮沢りえ)が、施設職員の同僚の陽⼦(⼆階堂ふみ)や、さとくん(磯村勇⽃)と出会い、障害者施設の闇に触れていく。
障害者に対する理不尽な暴力に憤りを覚える洋⼦だったが、さとくんの中でもある行き過ぎた考えが膨らんでいく…。
本作のオファーを受けた磯村は並並ならぬ覚悟を持って撮影に挑んだという。
役作りも繊細な作業が必要で、まさに命がけでさとくんを演じた磯村。
優しくて絵が好きなさとくんが、徐々に狂った正義感に駆られていく様子を演じ分け、見事第47回日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞をはじめとした多くの賞を受賞した。