映画史に伝説を作った凄まじい演技に注目
『ダークナイト』ヒース・レジャー(ジョーカー役)
製作年:2008年
製作国:アメリカ
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
キャスト:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ヒース・レジャー、ゲイリー・オールドマン
【作品内容】
ゴッサムシティはジョーカーの話題で持ち切りである。新任検事のハービー・デントは、悪がはびこるゴッサムシティを救うため、謎多きヒーロー・バットマンと協力して、街をクリーン化すると力強く宣言。
バットマンの正体である、資産家のブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)はデントの志と人柄を高く評価し、街の治安維持は彼に任せ、バットマンの引退を考えている。ウェインは検事のレイチェル・ドーズ(マギー・ジレンホール)に好意を寄せているが、彼女の心はウェインとデントの間で揺れているのだった…。
【注目ポイント】
バッドマンの宿敵として登場するジョーカーを演じたのは当時28歳のヒース・レジャー。彼は、同作公開目前にして、急性薬物中毒により急死。それゆえ、一部からはしばしば「ジョーカーの呪い」と言われる。
そうしたまことしやかな話に説得力をもたらすのは、役=ジョーカーが乗り移っているとしか思えないレジャーの渾身の芝居に他ならない。クランクイン前にホテルに缶詰になり役作りに取り組んだというレジャー。挙動不審な目つきや体の動き、特徴的な喋り方、すべてが相まって純粋な悪を体現している。
ジョーカーの目的は金でも名誉でもない。みずから「混乱の使者」と述べるように、街の混乱と市民の絶望を楽しんでいるのだ。終盤に一般市民と囚人が乗ったフェリーに爆薬を仕込み、お互いに起爆装置を押させようとする究極的な“実験”を仕掛けるように、彼には良心のカケラもない。
ヒース・レジャー演じるジョーカーはその極悪ぶりもさることながら、理性的なバッドマンとの対比によって際立つキャラクターでもある。マスクで表情が見えないバッドマンと比べるとジョーカーの表情は豊かで、人間味を感じる。そのため、我々観客はジョーカーが悪党であることを十分認識しつつも、彼に魅力を感じてしまうのだ。見るのは恐ろしいけどついつい惹かれてしまう…ジョーカーというキャラクターを魅力的にしているのはこの逆説に他ならない。
ヒース・レジャーの演技は絶賛され、アカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞、英国アカデミー賞助演男優賞など主要映画賞を総ざらいした。記憶にも記録にも残るヒースレジャーの演技は一見の価値ありである。