北野映画史上「最も残酷なバイオレンス映画」
『Dolls』(2002年)
監督:北野武
脚本:北野武
出演:菅野美穂、西島秀俊、松原智恵子、三橋達也
【作品内容】
松本(西島秀俊)は、結婚の約束をしていた恋人、佐和子(菅野美穂)を裏切り、出世のために社長令嬢と結婚することに。しかし、佐和子が精神を病み、自殺未遂が原因で記憶喪失になってしまったことを聞きつけた松本は、感情を抑えきれずに入院している佐和子を連れ去ってしまう。だが、おかしくなってしまった佐和子は、目を離すとすぐに徘徊してしまうことから、自らの体と佐和子の体を縄で繋ぐ。「繋がり乞食」と呼ばれながら、当て所なく彷徨うことになる…。
【注目ポイント】
西島秀俊は、どちらかといえば無骨な役者だ。しかし、その佇まいには、不思議な魅力が宿っている。その可能性を確信に変えてくれるのが『Dolls』だ。
本作は、数々のバイオレンス映画を手がけてきた北野武が「最も残酷なバイオレンス映画」と呼ぶ作品。文楽を軸に4つの物語が絡み合うオムニバス作品で、どのストーリーも盲目の愛がテーマになっている。
本作で西島が演じるのは、結婚直前に恋人の佐和子(菅野美穂)を裏切り、社長令嬢との結婚を決めた松本。彼は、自身の過ちで佐和子が精神を病んだことを知り、彼女とともに逃避行をはじめる。
菅野演じる佐和子が我を失った演技をしている一方で、西島は一見演技らしい演技をしていない。心神喪失状態の彼女をしっかりフォローしながらも、さしたるセリフもなく、虚ろな表情のままだ。
本作は、近松門左衛門の道行きが元になっている。文楽では鑑賞者は人形にさまざまな感情を投影する。表情がないからこそ、無限の表情が宿るのだ。
かつて北野武は、初監督作品『その男、凶暴につき』で、役者に「ただ佇むこと」を望んだ。映画にとって、セリフや演技は必要条件ではない。役者が存在することこそが重要なのかもしれない。