大河ドラマ史上、演技が上手かった主演俳優は? 最高の主役5選。鳥肌が立つほど凄まじい…歴史に残る名演をセレクト
毎年、誰が主演を務めるのか大きく期待される大河ドラマ。歴代の大河ドラマで主演を務めた役者も、大きなプレッシャーや難題に打ち勝ち、1年間1人の偉人の生涯を演じきるのだ。その姿に視聴者は感動し、賛辞を送る。そこで今回は、近年の大河ドラマで主演を務めたベスト俳優を5人セレクトして紹介する。(文・寺島武志)
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天才俳優が見事に演じた“最後の将軍”
●本木雅弘『徳川慶喜』
放送期間:1998年1月4日~12月13日
原作:司馬遼太郎
脚本:田向正健
他キャスト:菅原文太、若葉竜也、石田ひかり、若尾文子、内野聖陽、中村橋之助、鶴田真由、小日向文世、杉良太郎、坂東八十助、伊武雅刀、勝野洋、橋爪淳、小澤征悦、渡辺徹、花柳錦之輔
【作品内容】
江戸幕府第15代将軍徳川慶喜の半生を描いた異色の大河ドラマ。すでに力を失いつつあった徳川幕府最後の将軍の座を任せられた青年の重く切ない運命を、司馬遼太郎による原作『最後の将軍』を基に描いている。
時は幕末。アメリカの軍人ペリーの来航や時の大老・井伊直弼の暗殺、薩長同盟を端緒とする討幕派の決起など、日本は激動の時代を迎えていた。
そんな中、江戸幕府では、徳川家茂の後継として、時の帝である孝明天皇の宣下を受け、慶喜が30歳の若さで将軍に就任。しかし、直後に孝明天皇が崩御し、幕府そして日本の命運が彼の双肩にかかっていく。
一橋家出身の慶喜は、それまでの徳川家にはなかった政治センスを発揮するが、やがて大政奉還を決意。260年余り続いた江戸幕府の終わりを見届けることになる。
【注目ポイント】
慶喜を演じる役者に共通するのが、そこはかとない上品さだろう。近作では、『篤姫』(2008)の平岳大、『八重の桜』(2013)の小泉孝太郎、『西郷どん』(2018)の松田翔太と、二世俳優が起用されることが多い。こういったキャスティングは、江戸幕府の将軍という育ちの良さをイメージしたものと思われる。
他にも、『新選組!』(2004)の今井朋彦 、『龍馬伝』(2010)の田中哲司、『花燃ゆ』(2015)のお笑いコンビ・どぶろっくの森慎太郎らが好演。また、『青天を衝け』(2021)で、ジャニーズ(現・SMILE-UP.)出身で一流俳優の仲間入りを果たした草彅剛が見事な演技を見せたところは記憶に新しい。
江戸幕府最後の将軍ながら、運命に翻弄された軟弱な男—。そんな徳川慶喜のイメージをゆるぎないものにしたのは、間違いなくこの『徳川慶喜』だろう。作中では、草彅の先輩である本木雅弘が、慶喜の苦悩と葛藤の半生を悲哀たっぷりに演じている。
本作を語る上で欠かせないのが、慶喜がひそかに江戸を抜け出し、父・斉昭の墓に墓参りをするというシーンだ。冷たい雨の中、沈痛な表情で墓前に立ち尽くす慶喜の姿は、多くの視聴者の胸を打った。
なお、ロケ地となった瑞竜山は、水戸徳川家の初代・頼房から現在に至るまで、歴代当主の墓がある神聖な場所として知られている。撮影では、慶喜が斉昭の墓参りをするという設定から特別に許可が下りたといわれており、頼房の墓を作中では斉昭の墓に見立てて撮影されたという。
さて、本木はその後、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督の『おくりびと』(2008)、西川美和監督の『永い言い訳』(2016)といった良質な邦画に出演。出演本数は決して多くはないが、独特のバランス感覚に根差した正統派かつ個性的な演技で爪痕をのこしている。
そんな本木が役者として不動の評価を確立した本作は、再評価されるべき大河ドラマの筆頭に挙げられるだろう。なお、作中では、慶喜の幼少期の七郎麿を、当時9歳の若葉竜也が演じている。若葉の初々しい演技も必見だ。