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巨匠・黒澤明をも唸らせた「悪」を体現する迫真の芝居

『天国と地獄』(1963)山崎努

『天国と地獄』の広告記事(東宝フォトニュースより)右下が犯人役の山崎努

『天国と地獄』の広告記事(東宝フォトニュースより)右下が犯人役の山崎努【Getty Images】

監督・脚本:黒澤明
原作:エド・マクベイン
キャスト:三船敏郎、仲代達矢、香川京子、三橋達也、山崎努、木村功、石山健二郎、加藤武、佐田豊

【作品内容】

横浜の製靴会社の重役・権藤(三船敏郎)のもとに“息子を預かった”という脅迫電話がかかる。しかし誘拐されたのは権藤の息子に間違われた運転手の息子(島津雅彦)だった。

【注目ポイント】

『用心棒』(1961)、『椿三十郎』(1962)という娯楽時代劇の傑作を連発していた時期の黒澤明監督による現代サスペンス映画。三船敏郎や仲代達矢といった面々が再登場しているのも嬉しい。

アメリカのミステリー作家エド・マクベインの「キングの身代金」を巧みに翻案した。横浜の貧民窟と山の手の豪邸を“天国と地獄”に見立てて、このタイトルとなった。

犯人の竹内を演じたのは若き日の山崎努。1960年に映画デビューしたばかりという中で、三船敏郎や仲代達也といった大スターと対峙する大役に抜擢された。犯罪捜査、身代金受け渡しのシーンのヒリヒリとした緊張感は60年前の映画と思えないものに仕上がっている。

山崎演じる誘拐事件の犯人・竹内は、貧困にあえぐインテリ青年。自宅の窓から見える豪邸に暮らす三船敏郎演じる権藤に一方的に恨みを募らせ、幼児誘拐という手段で一矢報いようとするが失敗する。

143分と長尺ではあるが見どころ満載で飽きさせることはない。クライマックスで面会を果たす権藤(=三船敏郎)と竹内(=山崎努)が金網を挟んで対峙するシーンは強烈な印象を残す。この時、金網が照明の熱で高温になっていたが山崎は火傷をしながらも演じ切った。

本来、物語は「地下にある拘置所から地上へ向かう通路で権藤と刑事が会話を交わすシーン」で幕を閉じる予定だったとのことだが、火傷も辞さない山崎の圧巻の芝居に感銘を受けた黒澤明によって、拘置所での対話シーンが映画の最後に置かれることに。物語の最後に「悪」が鮮烈なインパクトを残すという点で、『ダークナイト』(2008)を先がけていると言ったら言い過ぎだろうか。

ちなみに、前述の『踊る大捜査線THE MOVIE』ではかなりストレートなオマージュシーンがあるので、興味のある方は見比べてみてほしい。

今回取り上げた悪役は、先天的にその素養を持ち合わせた者から、人生の過程でその素養が醸成された後天的な者まで様々だが、どれも忘れがたいインパクトを残している面々ばかりである。

当然、演じた者と監督などの演出陣の巧さがあってのものだが、それゆえに実に魅力的な存在になってしまっている。妖しさを湛えた存在と言えばいいのだろうか、彼らは劇中で実に生き生きとしている。

現実社会に置き換えたときには一人でも存在してほしくない者ばかりだが、なぜか主人公たちではなく彼らを見たさに映画を見直したくなる時があるのが困りものだ。

(文:村松健太郎)

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