“何をしでかすかわからない雰囲気”が魅力
永山瑛太
【注目ポイント】
永山瑛太は、全身からただならぬ気配を発する、アブない俳優である。もちろんこれは褒め言葉だ。映画でもドラマでも舞台でも、永山が登場するだけで予定調和が崩れさり、物語にスリルと緊張感が生まれる。永山がまとう“何をしでかすかわからない雰囲気”は言うまでもなく、俳優としての美点以外のなにものでもない。
画面に良い意味での違和感を残す永山の芝居は、サスペンスやヒューマンドラマのみならず、コメディ作品でも遺憾なく発揮される。2023年放送のドラマ『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)では、時間犯罪者を取り締まる“未来人”というキテレツなキャラクターに扮し、共演の吉岡里帆との丁々発止のやり取りで笑いを生み出した。同作が生み出す笑いの起爆剤になったのが、永山の“何をしでかすかわからない雰囲気”であることは言うまでもないだろう。
三船敏郎、勝新太郎、松田優作…思い返すと、名優と呼ばれる俳優はどこか危険な雰囲気をまとっていた。映画『男はつらいよ』の寅さん役で知られる渥美清でさえ、太宰久雄演じるタコ社長を殴っている時の芝居には殺気が宿っていた。
演技が上手い現役の俳優は少なくないが、かつての名優が身にまとっていた危険なオーラを放つ俳優は決して多くない。永山瑛太に注目が集まる理由はそこにある。今後の活動にも目が離せない。
永山瑛太の演技を堪能するためのお勧めの一本
『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007)
伊坂幸太郎の同名小説を原作に、『ポテチ』(2012)や『殿、利息でござる!』(2016)などの中村義洋監督が手がけた本作。
本作での瑛太は、濱田岳演じる大学生・椎名の隣に住む、河崎という謎めいた男を演じる。河崎は、同じアパートに住む留学生・ドルジのために本屋を襲撃して広辞苑を盗むため、椎名を巻き込んでいく。
原作を読んだことがある方ならおわかりだろうが、どんでん返し系の作品であるため、作者である伊坂幸太郎本人も映像化は難しいと感じていたという。しかし、作中に細かく散りばめられた伏線と役者による見事な芝居によって、観客をグイグイと世界観に引き込み、最後にしっかりと裏切ってくれる。
そして物語の鍵を握る瑛太は、のらりくらりとした雰囲気の中に何か掴みきれない部分を残す謎めいた男、“河崎”を演じる。あくまで軽やかに、それでいて味のある芝居は、椎名を演じる濱田岳と好対照をなしており、味わい深い。本作での芝居が高く評価された永山は、第22回高崎映画祭において最優秀主演男優賞を受賞。俳優として飛躍するきっかけとなった1本だ。