“デキる男”を演じさせたら右に出る者はいない
長谷川博己
【注目ポイント】
TBS日曜劇場枠で放送され、最終回視聴率12.2%の有終の美を飾った社会派ドラマ『アンチヒーロー』。人気ドラマ『VIVANT』の制作陣が手がけた本作で、殺人犯をも無罪にしてしまう型破りな弁護士・明墨正樹を演じたのが、長谷川博己だ。
これまで、政府の役人やエリート官僚などの”デキる男”を演じることが多かった長谷川。今回も、骨太のストーリー以上に、彼が醸しだす大人の色気や緊張感が本作を成功へ導いたと言っても過言ではないだろう。
勝手ながら筆者は、どんな役もそつなくこなす長谷川に「エリート街道をひた走る完璧人間」という印象を抱いていた。しかし、実のところ長谷川はもともと映画監督志望で、かつてはサブカルチャーに傾倒。大学時代は「an・an」や「ポパイ」で知られるマガジンハウスでアルバイトをしており、使いっ走りとしてリリー・フランキーの原稿を取りに行っていたのだという。
卒業後は、俳優を志して文学座への入団を試みるが不合格。一時は制作会社のADで糊口をしのぎ、翌年の再受験でようやく合格を勝ち取ることになる。
日本トップレベルの演技力を誇る長谷川。その演技に、彼が培ってきた泥臭い経験が活きているのは確かなようだ。
長谷川博己の演技を堪能するためのお勧めの一本
『シン・ゴジラ』(2016)
長谷川の“デキる男”ぶりを堪能できる映画といえば、やはりこの1本を挙げなければならないだろう。日本特撮界を代表する監督である庵野秀明と樋口真嗣が手を取り合った『シン・ゴジラ』だ。
本作で長谷川が演じるのは、主人公である保守第一党所属の衆議院議員・矢口蘭堂。冷静で頭がキレる頼りがいのある男だ。
とはいえ、彼のセリフは終始早口で、その上専門用語が多いため、観客である私たちは正直ついていくだけで精一杯だろう。ただ、この圧倒的な情報量と難解なセリフ回しが絶妙な説得力と観客を飽きさせないスピード感を生んでいる。
なお、制作にあたっては、庵野が実際に自衛隊へ足を運び、実際にゴジラが日本に襲来したことを想定した上で話し合いを重ねたとのこと。本作のリアリティと骨太なストーリーは、長谷川や庵野をはじめとするキャスト・スタッフたちの熱意の賜物なのだ。