子役時代から培ってきた技術と唯一無二の存在感
高橋一生
【注目ポイント】
子役としてキャリアをスタートし、『耳をすませば』(1995)で主人公・天沢聖司の声優を担当するなど、地道に芸能活動を続けてきた高橋一生。しかし、彼の存在がお茶の間に浸透したのは、ドラマ『民王』(2015、テレビ朝日系)あたりではないだろうか。
総理大臣の武藤泰山(遠藤憲一)とその息子の翔(菅田将暉)の「とりかえばや物語」(平安時代後期に成立した物語。「とりかへばや」とは「取り替えたいなあ」と言う意味)である本作では、高橋演じるドS秘書貝原茂平が、遠藤演じる翔とアドリブ満載の爆笑トークを展開し、視聴者の目をくぎ付けに。高橋も、遠藤や菅田と並ぶ人気を獲得し、数々の作品で主演を張るようになった。
30代で本格的に売れ始めた印象がある高橋だが、子役時代から培ってきた技術と唯一無二の存在感は他の追随をゆるさない。
特に、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するキャラクターを主人公にした『岸辺露伴は動かない』(2020~2024、NHK総合)では、主人公の岸辺露伴を好演。さらに、2024年6月には、手塚治虫による名作を実写化したドラマ『ブラック・ジャック』で、主人公の間黒男(ブラック・ジャック)を演じ、盤石の芝居で視聴者を魅了した。
原作に寄り添った役づくりで観客の心を掴み、作品をヒットに導く俳優の1人となったのは間違いないだろう。
そんな高橋だが、今回紹介するのは、従来の高橋のイメージをくつがえすようなひねりの効いた一本だ。
高橋一生の演技を堪能するためのお勧めの一本
『ロマンスドール』(2020)
本作は、映画監督タナダユキの同名小説を実写化した作品。物語は、高橋演じるラブドール職人北村哲雄とドールの胸の型取りモデル園子(蒼井優)とのラブストーリーだ。
美大の彫刻科を卒業後、フリーターだった北村は、ひょんなことからラブドールを製作する子会社に入社。そこで園子(蒼井優)に一目惚れし、交際を申し込むが、後ろめたさから自分の職業は隠したまま園子と付き合うことになる。
アダルトグッズというなんともセンセーショナルなテーマを扱った本作だが、その挑戦的な題材とは裏腹に、登場人物の心理描写は丁寧にそのもの。大袈裟な芝居やクセの強いキャラクターが似合う高橋も本作では落ち着いた芝居で気持ちの変化を表現している。
また、邦画ならではの「ほっこり感」も本作の魅力の一つ。特に、造形師の相川金次(きたろう)と北村が並んだカットのなんとも言えない可愛らしさと、北村と園子の間に流れる空気感は、観客の心を掴むこと間違いないだろう。
なお、高橋のキャスティングは、監督のタナダのラブコールによって実現したもので、タナダ自身は、「芝居に非の打ちどころがない器用な俳優」と高橋を絶賛している。ラブドール職人といういささか偏屈なイメージの役は、高橋にしか演じられない役と言えるかもしれない。