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リアリティーのあるビターエンドこそ新海誠の真骨頂

『秒速5センチメートル』(2007)

監督の新海誠【Getty Images】
新海誠監督Getty Images

【作品内容】

本作は「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の3章仕立てとなっている。主人公の遠野貴樹は、小学生の頃、同級生の篠原明里に初恋をした。しかし明里は栃木県に引っ越してしまう。一方の貴樹も鹿児島県に引っ越すことが決まり、最後に電車に乗って明里に会いに行くことにするのだが…。

【注目ポイント】

『秒速5センチメートル』(2007)は、言わずと知れた新海誠監督の出世作である。物語があまりに切なすぎて、多くのファンの心にトラウマめいたものを残した。ハッピーエンドという見方もできるが、それでも「鬱アニメ」と評する人が多いのは一章「桜花抄」で描かれる雪のシーンと、最終章における貴樹と明里の境遇を対比したシーンが原因だろう。

【作品内容】の項目で述べたとおり、「桜花抄」で貴樹は鹿児島県への転居が決まるが、引っ越す前に相思相愛の相手・明里に一目会うために、電車で東京から栃木に向かう。しかし雪で電車は長時間停車を余儀なくされてしまう。また、貴樹は明里に渡すはずだった手紙を風に飛ばされてしまう。まだガラケーもない時代である。

予定の時間は大幅にオーバーしてしまうが、明里は健気にも、待合室で待ってくれており、2人は共に夜を過ごす。明里の方でも貴樹への手紙を用意していたが、翌朝になって彼女は貴樹との決別を選び、手紙もあえて渡さないことにする。

また最終章で、貴樹は別の女性と付き合っているが、彼女からは「心が通じ合っている感じがしない」と言われる。貴樹はまだ明里を引きずっているわけだ。一方で明里はもう新しい恋人と結婚を決めている。この対比の悲壮感たるや…といった感じだ。

「最終的に初恋の二人は結ばれない」というオチが「鬱」と呼ばれるゆえんだろう。しかし個人的にはむしろ、貴樹が過去の思い出を振り払い、前を向けるようになるまでのポジティブなストーリーだと思っている。ラストシーンで貴樹が爽やかな笑みを浮かべているのが、ハッピーエンドの証左ではないだろうか。

ちなみに『君の名は。』(2016)以前の新海誠作品は、このリアリティーのあるビターエンドこそが魅力だ。結ばれそうで結ばれない切なさこそが、新海作品の真骨頂であると筆者は信じて疑わない。

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