吉田恵里香が描く個性的で生き生きとしたキャラクターたち
そして言及すべきは、吉田恵里香の作品はエンターテインメントとしても優れている点である。まずもって、彼女が描くキャラクターは個性的で生き生きとしている。
『虎に翼』でいえば、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)が人気だ。颯爽とした男装姿が印象的なよねは、寅子が明律大学女子部で出会った同期。壮絶な過去を抱える彼女は一見ドライだが、理不尽な目に遭っている人たちのために本気で怒れる正義感の持ち主である。本当は優しいのに不器用で突き放した言い方をしてしまうところも、視聴者を萌えさせるポイントだ。
明律大学法学部の男子生徒・轟も当初は男尊女卑を振りかざす破天荒なキャラかと思いきや、実は誰よりフラットに物事を見ていて、寅子たち女子学生とともに勉学の時間を過ごすうちに考えを改めるようになった。梅子(平岩紙)の弁護士の夫が講義で妻を下げる発言をした時も彼は笑っていない。
Xで「#俺たちの轟」というハッシュタグが生まれるほどに轟が愛されている理由はそこだ。ながら見だとついスルーしてしまいそうな細かいところを視聴者は意外と見ている、ということを吉田は分かっている。視聴者をバカにしていない。
全体的にスピード感があり、驚くほど早く物語が展開されていく一方で丁寧かつ、芸が細やか。例えば、物語に出てくる判例を寅子たちの家族による劇中劇で説明するなど、物事をわかりやすく伝え、それでいて視聴者が楽しめるように、という工夫が随所に感じられる。
『生理のおじさんとその娘』でも、生理を巡ってスレ違う父と娘がラップで気持ちを伝え合う場面があった。話題が話題だけに、もし普通に親子が議論するだけだったらもっと重苦しいシーンになっていただろう。ラップを介することでグッと軽快さが増す。これには驚き、「この手があったか!」と驚かされた。