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倫理観を問う異色作

シーズン13「鮎川教授最後の授業」

放送日:2015年2月11日
脚本:輿水泰弘
犯人役:石野真子

 本エピソードは、正義ではなく”倫理を問う”異色作である。
 
 元東大教授である鮎川が優秀な教え子数名を招き、古希パーティを開催する。右京と社(仲間由紀恵)は出席するも、薬を盛られ監禁されてしまう。鮎川は彼等に猟銃を向けながら「何故人を殺してはいけないのか、説明せよ」という難問を突きつける。

 鮎川は趣味の狩猟で動物を殺していった結果、人を殺したいという衝動が抑えられなくなり、教え子達に上記の質問の回答を求めるためにパーティに招いたのであった。右京を含めて試験の結果は全員不合格、決心がついた鮎川は手始めに自身の家政婦である御堂黎子に猟銃を向ける。

 しかし黎子は鮎川が正気の頃に預かっていた小型拳銃で逆に鮎川を殺害する。完全なる正当防衛だが、右京は鮎川について再度調べなおす。その結果、黎子は鮎川が認知していなかった娘であることが明らかになる。

 黎子は母を苦労させた鮎川を恨んでおり、殺す為に家政婦として近付いていた。だが、鮎川が優しく接してくれたことで覚悟が決まらないまま時間だけが経つ。そんな中、鮎川は黎子が実娘であること、彼女が自分を殺す為に近付いてきたことを知る。

 鮎川は毒物保管庫の鍵や小型拳銃を渡すなど、罪を償うために彼女に殺されようと努力する。だがそれでも黎子は殺害に踏み切れない。そこで鮎川は今回の事件を計画して彼女に自分を殺させようとしたのである。

 全てを明らかにした右京は黎子へ尋ねる。

「貴方はここで撃てば”殺される”と思い引き金を引きましたか? それともここで撃てば”殺せる”と思い引き金を引きましたか? 前者なら正当防衛、後者なら紛れもない殺人です」

 黎子は殺意を認め、殺人容疑で送検される。

 本作は第41回放送文化基金賞の最優秀賞を受賞しているが、その肩書に恥じない名作だと言える。物語のラストで社が右京に対して「彼女は杉下さんの追及で、”その瞬間に殺意があった”と気づいたという気になってしまったのではないでしょうか?」と疑問を投げかけている。

 これが真実であれば黎子の逮捕は”杉下右京が生み出した完全な冤罪”に他ならない。人を殺してはいけない理由は何故かという問いだけにとどまらず、殺意という目に見えないものに対して右京が徹底的に追及する姿には恐ろしさすら感じる。正しいのは右京かもしれないが、何が正解なのかこのエピソードは視聴者に問いかけてくる。

 最後に、歴代相棒は全員好きではあるが、個人的にはその中でも甲斐享が特別好きだ。未熟な若者が、特命係での経験、様々な事件を通して、警察官としても人間としても成長していく過程が素晴らしい。

 またそんな彼を杉下右京を始めとしたレギュラー陣が厳しくも暖かく育てていくのが好きだ。恋人の悦子を通して父である峯秋とも徐々に和解をしていくという人間ドラマも好きだ。

 最終的に彼は間違った道を進み逮捕されてしまうが、支えてくれる父兄や相棒…何より待ち続ける妻子もいる。私自身もファンの1人として彼の再登場を待ち続けたいと思う。

(文・Naoki)

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