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戦後最大の闇をオブラートに包んだ
社会派の名匠によるドタバタ喜劇

『にっぽん泥棒物語』(1965)

三國連太郎【Getty Images】
林田義助役の三國連太郎Getty Images

上映時間:117分
監督:山本薩夫
脚本:高岩肇、武田敦
出演:三國連太郎、北林谷栄、緑魔子、佐久間良子、江原真二郎、市原悦子、伊藤雄之助

【作品内容】

 終戦直後の1948年。母妹と3人で福島の山奥に暮らす林田義助は、定職につかず、土蔵破りで盗んだ商品を売って糊口を凌いでいた。しかし、芸者の妻が盗品を売り捌いたことからとうとう足がつき、仲間とともに福島刑務所に収監されることになる。

 そして、保釈後の1949年夏。呉服店杉山に土蔵破りに入った林田と仲間の庫吉は、そこで不審な人物と鉢合わせる。軽く挨拶を交わしその場をやり過ごそうとする杉山と庫吉だったが、その直後、あたり一面に響き渡る衝撃音を耳にする。

【注目ポイント】

 太平洋戦争の混乱冷めやらぬ1949年。国内で国鉄がらみの未解決事件が相次いで起こった。1つ目は、国鉄総裁の下山定則が失踪し、轢死体で発見された下川事件。2つ目は、中央本線三鷹駅構内で無人列車が暴走し、商店街に突っ込んだ三鷹事件。そして3つ目は、本作のテーマとなる松川事件だ。これら3つの事件を、戦後間もない日本を揺るがした「鉄道テロ事件」と捉える向きもある。

 1949年8月17日、東北本線青森発上野行きの旅客列車が突如脱線し、乗務員3人が犠牲になった。その後、現場検証を行ったところ、転覆地点のボルトとナット、継ぎ目が外されていたことが判明。人為的な事件であることが明らかになった。これが松川事件の概要である。

 本作はそんな松川事件をテーマとした作品。監督は『白い巨塔』(1966)や『華麗なる一族』(1974)の山本薩夫で、主人公の林田義助を三國連太郎が演じる。

 本作では、松川事件を「杉山事件」に、事件の目撃者でのちに不審死を遂げた斉藤金作を「後藤きんぞう」に変えるなど、かなりオブラートに包んだ表現がなされている。

 また、物語自体も、前半部は山本作品には珍しく林田義助を軸に据えたコメディになっている。特に、主演の三國の福島なまりの演技は、後年の『釣りバカ日誌』のスーさんを彷彿とさせるコミカルなものになっている。

 しかし、後半部になると法廷のシーンがメインになり、一気にミステリーの色合いが濃くなってくる。このシーンでは、弁護士役の千葉真一や刑事役の伊藤雄之助などアクの強い人物が次々登場し演技合戦の様相を呈している。

 なお、本事件は、線路工の少年の自供きっかけに、国鉄の労働組合員20名が逮捕され、うち5名には死刑判決が下っている。しかし、その後控訴審が進む中で徐々に有罪が覆され始め、14年後の1963年に被告全員無罪という形で事件は幕を下ろしている。こういった顛末から、本事件は「戦後最大の冤罪事件」としても語り継がれている。

 松川事件の真犯人は一体誰だったのか。最も有力な説は「労働組合員を排斥しようとしたアメリカの陰謀」というものだ。しかし、80年近く経った現在も真相は未だに明らかにされていない。

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