『違国日記』でクールで孤独な女性・槙生を好演
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合、2022)では主人公・北条義時(小栗旬)の妻となる八重の気高い生き様を体現し、『風間公親-教場0-』(フジテレビ系、2023)では刑事の仕事と子育ての両立に悩む等身大の女性を好演するなど、年齢とともに役の幅を広げていく新垣。
昨年11月に公開された映画『正欲』(2023)では、果敢にも“水”に対して欲望を抱く特殊性癖を抱えた女性という難役に挑み、社会からはぐれたような不安と焦燥感を繊細に映し出した。
そんな中、新垣が『違国日記』で主人公の槙生を演じることが発表された時は正直意外だった。というのも、原作における槙生はシャープなフェイスラインに涼しげな目元、まっすぐ通った鼻筋とビジュアルがかなり中性的。言ってみれば、宝塚の男役のようなキャラクターなのである。
対して、新垣は背が高くスラッとしてはいるものの、クールよりもキュートなイメージがあり、当初は槙生と結びつかなかったのだ。原作人気が高いゆえに不安もあったが、映画が始まってすぐにそれは杞憂だったことが分かった。
この映画は自他境界をめぐる作品だ。早瀬憩演じる朝は15歳にして事故で両親を失い、一人で砂漠の真ん中に放り出されたような不安や孤独を抱えている。
けれど、槙生は「あなたの気持ちがわかるよ」と言って彼女を抱きしめたりしない。「私とあなたは違う人間で、あなたの感情はあなただけのものだし、私の感情は私だけのもの」と一線を引く。当然、朝は寂しさを覚えるが、それは槙生の彼女に対する最大の尊重なのだ。お互いを傷つけ合わないためにも。
心地よい寂しさを全身にまとう新垣は完璧な槙生だった。カメラは完璧な大人ではなく、悩みもがきながら朝と向き合う槙生を演じる新垣の細やかな表情や動きを鮮明に捉えていく。
今やすっかりスクリーンに映える映画俳優となった新垣結衣。『違国日記』というエポックメイキングな作品を得て、さらに進化していくであろう彼女から目が離せない。
(文・苫とり子)
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