令和の世の中では実現不可能? 青春映画の名匠が描く「少年少女たちの神話」
『台風クラブ』(1985)
上映時間:115分
監督:相米慎二
脚本:加藤祐司
出演:三上祐一、紅林茂、松永敏行、工藤由貴、大西結花、三浦友和
【作品内容】
信州の田舎町。中学生の理恵(工藤由貴)たちは、夜のプールで生徒たちと戯れたりと、だらしない日々を送っていた。そんなある日、街に巨大な台風が接近する。やがて豪雨となり、学校に閉じ込められた理恵たちは、一夜限りの騒乱状態に陥る。
【注目ポイント】
1989年。昭和最後のこの年にとある書籍が出版された。名前は「少女民俗学―世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」」(カッパ・サイエンス)。著者は「「おたく」の精神史―1980年代論」(講談社現代新書)などで知られる気鋭の社会学者・大塚英志だ。
大塚は本書で、「朝シャン」や「変体少女文字」、「リカちゃん人形」といった当時の少女たちの風習を引き合いに、少女という存在を「巫女の系譜」に位置付けてみせる。正直この論、眉唾感が半端ではないが、大塚の巧みな手つきも相まって妙に納得させられてしまう。確かに少女という言葉にはどこか神秘的な魅力がある。
さて、本作に登場する少女からも、非日常的な神秘性がひしひしと感じられる。特に、夜の校庭で彼女たちが踊るシーンには、人間になり切れていない少女たちの無軌道な狂気がはっきりと刻印されており、瑞々しさを通り越して畏怖の念すら感じられる。おそらくプロのダンサーであればこれほど神々しいシーンにはならなかっただろう。
また本作では、そんな少女たちと戯れ、牙を向ける存在として、少年たちが登場する。中でも際立っているのは、野球部員の健(紅林茂)だろう。誰もいない学校で「ただいま、おかえりなさい」とつぶやきながら美智子に迫り服をはぎ取るシーンは、執拗なカメラワークも相まってぞっとするほどに恐ろしい。
そして、本作を語る上で欠かせないのが「台風」というモチーフだ。
子供のころ、台風が来る日はなんとなく特別だった。ただの天候不順とは異なる圧倒的な非日常感に、いつもより早く帰れることのワクワク感-。台風という巨大なモンスターが、憂鬱な日常も学校も、全部まるごと吹き飛ばしてしまうのではないか。そんな妄想をよく頭の中で巡らせたものだ。
本作では、そんな台風が学生たちの狂騒感とリンクして描かれている。いわば「台風」とは、彼/彼女らのやり場のない感情そのものなのだ。
さて、本作のリブートは、おそらく今回挙げた5本の映画の中で一番難しいかもしれない。なぜなら、令和4年に成立した「こども基本法」をはじめ、子どもの権利を守る法整備は1980年代当時と比べ物にならないくらい進んでいるからだ。特にクライマックスの下着姿のダンスシーンに関しては、剛腕演出で知られる相米慎二監督だからこそ実現できたシーンであり、80年代当時もかなりきわどい演出だったのは間違いない。
ただ、子ども特有の残酷さを取り上げた作品は、『告白』(2010)や『先生を流産させる会』(2011)など、未だに数多くの作品が作られている。もし令和の世の中で本作をリブートするとすれば、子役の撮影に長けた是枝裕和がメガホンを取ると面白いかもしれない。