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“当て馬俳優”から脱皮…アブないキャラクターに命を吹き込む

敢闘賞は『95』中川大志

中川大志
中川大志Getty Images

 2024年春クールに『Eye Love You』(TBS系)で切ない“当て馬”ポジションを見事に演じて話題を集めた中川大志。今クールでは『95』(テレビ東京系)、『滅相も無い』(MBS・TBS系)に出演した。

 どちらも話題となったが、ここでは特に『95』に触れたい。中川が演じたのは、政治家の祖父、病院経営者の父、テレビコメンテーターの母を持つセレブな高校生・鈴木翔太郎こと翔。周囲を惹きつけるカリスマ性があって、おまけに見栄えもいい。

 設定がもりもりなのだが、そんな役でも中川は実に飄々と演じているように見えるのだ。気負いがない、とも言えるだろうか。

 翔は、自分は主人公の器ではないとして、チームに広重秋久(髙橋海人)を半ば強引に引き込む。そして90年代特有の、渋谷にはびこっていた陰鬱な空気のなかで青春を駆け抜けていく。

 最初こそ、翔は渋谷に君臨するにふさわしい人物のように見えた。巧みな言葉でチームをけん引し、金もカリスマ性も持つ圧倒的な存在。堂々としたその佇まいには、特有の人だけが持つ色香が漂っていた。なにがではなく、とにかく“なにか”がヤバい。

 これまでの中川の経験値を思えば、高校生役をやるには25歳(当時)というのはやや大人びているのでは、といった懸念もあった。しかし、蓋を開けてみると、なるほどこの役を全うするにあたって、役者として油が乗り切った今がふさわしいと思わせる名演を披露した。

 ドラマは回を追うごとに、翔の行動が引き金となり、渋谷の混沌が若者たちを追い込んでいく。その過程で未熟さを露呈させていく翔の人間性に説得力があったのは、ひとえに、子どもでも大人でもない高校生特有の混沌とした感覚を丁寧に表現した、中川の演技力の賜物だろう。

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