メスで刺身を切る!? 実写版の黄金時代~隆大介版・本木雅弘版
さて、実写化の歴史の中でも最も評価が高いのが、1996年に公開された隆大介版の『ブラック・ジャック』だ。メガホンを取ったのは小中和哉。宍戸錠版の監督である大林宣彦に私淑し、平成ウルトラマンシリーズを多く手がけてきた監督だ。
隆大介版の最大の評価ポイントは、原作に忠実であるという点に尽きる。特に、ピノコの誕生を描いた回は秀逸だ。奇形腫を切除しようとしたブラック・ジャックが謎の頭痛に見舞われるシーンは、小中が培ってきた特撮ならではの映像感覚で、オリジナルを見事に再現している。
また、役者陣の演技も魅力の1つだ。特に、ピノコ役の田島穂奈美は、まるで漫画からそのまま出てきたかのような演技で、視聴者を魅了すること間違いない。また、ブラック・ジャック役の隆大介や、ドクター・キリコ役の草刈正雄も、原作をトレースしたような見事な演技を披露している。
そして2000年。21世紀最初のこの年に制作されたのが、TBS系列で複数回単発ドラマとして放送された本木雅弘版のブラック・ジャックだ。監督は『金田一少年の事件簿』(1995~1996、日本テレビ系列)や『ケイゾク』(1999、TBS系列)で一世を風靡した演出家・堤幸彦。出演者には、本木のほかに永作博美や柴咲コウ、いかりや長介、森本レオら豪華キャスト陣が名を連ねている。
本作の最大の特徴は、「堤幸彦作品である」ということだ。歪な構図に手持ちカメラの多用、そしてシリアスな雰囲気の中で繰り出されるシュールなギャグといった堤作品の作風は本作でも健在だ。特にコミカルな描写に関しては、主人公であるブラック・ジャックも例外ではなく、メスで刺身を切ったり、電子レンジでゆで卵を作ろうとしたりと、半分コメディリリーフ化している。
また本作は、第1作が完全なオリジナルストーリーだったり、ピノコが双子として登場したりと、オリジナル要素が強い作品でもある。そう考えると、本作は、『ブラック・ジャック』の世界観を換骨奪胎した堤幸彦作品と言った方が正しいのかもしれない。