顔の傷に隠された秘密とは? 岡田将生版
さて、最後に紹介するのは、2011年に日本テレビ系列で単発ドラマとして放送された『ヤング ブラック・ジャック』だ。ブラック・ジャック役は『ホノカアボーイ』(2009)や『ドライブ・マイ・カー』(2021)で知られる岡田将生。監督を『NANA』(2005)や『黒執事』(2014)などの漫画実写化が多い大谷健太郎が務める。
『ヤング ブラック・ジャック』のタイトルどおり、本作で語られるのはブラック・ジャックの過去、いわば前日譚だ。
実はブラック・ジャックは、幼い頃に母親と共に不発弾の爆発に巻き込まれ、重傷を負っている。この事故は、不発弾が埋まっていた土地の地主が早く土地を売るために業者に賄賂を渡していたのが原因によるものだった(ドラマでは、市街地での爆発事故による被災)。この事故により母親は死亡。ブラック・ジャックの方は、名医である本間丈太郎の治療と死に物狂いのリハビリの経験によりなんとか一命をとりとめるものの、皮膚移植に伴う傷とショックによる白髪が後遺症として残ってしまった。
なお、ブラック・ジャックの顔の色が一部違う理由もこのときの事故に起因している。皮膚移植の際、日本人と黒人のハーフだった親友のタカシが、自らの臀部の皮膚を提供してくれたのだ。ちなみに、タカシはその後アフリカで反政府ゲリラに参加し、自らの命を散らしている(第92話「友よいずこ」)。つまり、ブラック・ジャックの半生は、血と恩讐にまみれたものだったのだ。
とはいえ、当時20歳そこそこの岡田が、果たしてこれほどまでに重いテーマを演じ切れているかというとはなはだ疑問だ。また、「正統派イケメン」である岡田には、原作に見られる人間臭さやアクの強さが薄く、正直ミスキャストと言わざるを得ないだろう。
なお、同年にはブラック・ジャックの前日譚を描いた同名の漫画(脚本:田畑由秋、作画:大熊ゆうご)が『ヤングチャンピオン』で連載開始している。そう考えると岡田将生版の『ブラック・ジャック』は、漫画版とのタイアップによって制作されたドラマだったのかもしれない。
さて、ここまで5作品の実写作品を観てきたが、どの作品にも共通する点は、良くも悪くも「作品それぞれに個性がある」ということだ。これは、ひとえに、手塚が遺した原作の、汲めども尽きせぬ豊饒さゆえのものだろう。
誕生から四半世紀にわたり、読者を魅了してきた『ブラック・ジャック』。今後はどのような形で実写化されるのか。次の機会を首を長くして待ちたい。
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