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“余白”を描き続けてきた『アンメット』の中でも指折りの名シーン

第10話 ケーキ屋でガトーショコラを“1つだけ”購入する成増(野呂佳代)

『アンメット』第11話より ©カンテレ
成増役の野呂佳代。『アンメット』第11話より ©カンテレ

 テレビやスマートフォンなどで好きなタイミングで視聴できるドラマ作品は、“ながら見”をする視聴者も多く、そうした層に配慮してか、どうしても説明台詞が多くなってしまうもの。しかし、『アンメット』の場合は、若葉竜也が「説明台詞をなるべく減らしたい」と製作陣にリクエストしたこともあり、とにかく“余白”が多く、それがドラマの魅力に直結していた。

 その中でも、第10話で野呂佳代演じる成増が、ケーキ屋でガトーショコラを購入するシーンには『アンメット』らしさが詰まっていたように感じる。

 このシーンの前に、成増は自身のパートナーを何らかの理由で亡くしたことを明かしていた。その人がどんな人物だったのか、なぜ亡くなったのか、深く言及することはなかったが(つまり、解釈も視聴者に委ねられている)、野呂佳代の自然体の芝居も相まって、彼がいない喪失感を埋められていないことがじわじわと伝わってきた。

 そんな成増に、三瓶は次のような言葉を投げかける。「脳には、前頭前野という場所があって、自分と他人を区別する場所なんですけど、大切な人や恋人に関しては区別しなくなるという報告があります」

 これを受けて成増は「彼と私が一緒になって前頭前野にいるってこと?」と幸せそうに笑ったあと、ケーキ屋に向かう。そこで口にした言葉が、“ガトーショコラ1つ”。

 普通はここで、「ガトーショコラ、亡くなった彼とよく一緒に食べてたんですよね」なんてセリフを入れるところだが、『アンメット』はそうはしない。余白を残すことで、視聴者に解釈を委ねる。このケーキ屋のシーンは一瞬だったにも関わらず、SNSではガトーショコラの意味をめぐって考察合戦が繰り広げられた。“濃い”視聴者が付いている『アンメット』ならではの現象だと言えるだろう。

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