ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » 天才女優のデビュー作、最も衝撃的だった作品は? 伝説の初出演作5選。世間にインパクトを与えた日本映画の快作をセレクト » Page 2

幸福と絶望のコントラストが凄まじい…天才女優の戦慄のデビュー作

●蒼井優『リリィ・シュシュのすべて』(2001)

女優の蒼井優【Getty Images】

監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演:市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩、大沢たかお、稲森いずみ

【作品内容】

 中学生の蓮見雄一(市原隼人)は、かつて親友だった同級生・星野修介(忍成修吾)にいじめを受けるようになる。星野の標的は雄一だけではなく、クラスメイトの津田詩織(蒼井優)にまで影響を及ぼし、彼女には売春を強要していた。そんな雄一の唯一の救いは、リリイ・シュシュの曲を聞くことだった。

 原作は岩井俊二によるインターネット小説で、連載終了後に、岩井俊二自身の手によって映画化された。

【注目ポイント】

 不良の同級生に売春を強要される女子中学生の津田詩織を演じた蒼井優は本作が映画初出演である。

 飄々と明るく振る舞うも心の底に穴が空いているような津田。“初仕事”が終わり、星野から見張りを任されていた雄一に、津田は稼ぎの分け前を与える。

 雄一が星野にたかられているのを知っているゆえの行動だが、彼が受け取ろうとしたお金を彼女は地面に投げつける。そして、雄一を鞄で叩き、地面の万札が破れるまで踏みにじる。そして、汚れた体を洗うように川へ入っていく。

 やり場のない苛立ちや悔しさ、喪失感など言葉にできない感情を晴らすような彼女のアクションは、見る者の胸を締め付ける。本作が登場するまで、10代の生がこれほどリアルに、痛ましく描かれたことはなかった。デビュー作から蒼井の演技は神がかっている。

 その後、なんとなく交流を続けていく雄一と津田。雄一の境遇に「きっと大丈夫」と声をかける津田だが、その後、鉄塔から飛び降りて自殺をしてしまう。自殺直前のシーンでは、津田が河川敷で大人と一緒に凧揚げを楽しむ様子が映される。そこでの彼女は中学生らしい、屈託のない笑顔を見せ、劇中で唯一と言ってもいい、幸福な時間を過ごす。

 凧揚げの場面と投身自殺の場面のコントラストが壮絶だ。死の直前に見せる無邪気な笑顔と飛び降りた後の彼女の痛ましい姿のギャップに胸を痛めずにはいられない。

 元々は、小説版と同様、伊藤歩演じる久野が自殺するストーリーだったというが、岩井が蒼井のキャラクターに触れるうちに、設定を変えたという逸話はつとに知られている。津田詩織という登場人物が多くの映画ファンの脳裏に焼き付いて離れない存在となったのは、岩井俊二の巧みな演出もさることながら、蒼井の傑出した演技と今にも消え入りそうな透明感の賜物だろう。当代を代表する天才女優の充実したキャリアはここから始まったのだ。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!