「何か起こしてくれる」と期待せずにはいられない憑依型俳優
阿部サダヲ
個性派俳優として、揺るがない地位を確立している阿部サダヲ。彼が画面に登場するだけで「何か起こしてくれる」と期待せずにはいられない、稀有な役者である。コミカルな雰囲気で人々を笑いへ誘う一方、シリアスで冷徹な役までひょうひょうとこなす姿は、“憑依型俳優”の鑑といっても過言ではない。
数多ある彼の出演作の中でも、とりわけ素晴らしい芝居が見られる作品は、社会現象を起こしたドラマ『医龍』(2006、フジテレビ系)だ。この作品で天才麻酔科医の荒瀬を演じた阿部は、コミカルな芝居を封印し、カッコよくてミステリアスなキャラクターを丁寧に作り上げてみせた。その結果、多くの視聴者を虜にし、原作ファンからも「原作に引けをとらない荒瀬が見られた」と高い評価を得た。
加えて特筆したいのがドラマ『マルモのおきて』(2011、フジテレビ系)で見せた演技だ。当時、子役だった芦田愛菜と鈴木福が注目を集めるなか、世の中を必死に生き抜く独身サラリーマンを熱演。同ドラマは回を追うごとに視聴者を魅了し、最終回では人々を感動の渦に巻き込んだ。
『医龍』ではミステリアスな雰囲気を醸し出す一方で、『マルモのおきて』では子どもと真摯に向き合う真面目な人間を演じた阿部サダヲ。それまでどちらかと言うと、大人計画出身の色物俳優として見られる向きもなくはなかったが、ドラマや映画での出演を重ねるたびに引き出しの多さを見せつけ、日本屈指のカメレオン俳優として確固たる地位を築くに至った。