『HiGH&LOW』轟洋介役でブレイク
多くの子役がぶち当たる壁。それは、10代の頃は仕事が絶えないが、大人とさほど変わらない容姿になる高校生くらいから仕事がめっきり減る…というもの。例に漏れず、前田も一時期はオーディションに受からない時期が続き、ドラマにも数話限りのゲスト出演が多くなる。
中でも多かったのが、『ワイルド・ヒーローズ』(日本テレビ系、2015)で演じた殺人鬼・守る役をはじめとした犯罪者役。だが、バラエティやトーク番組などに出演している時の様子を見てもわかるように、普段の前田は社交的で明るく、犯罪とは無縁の性格だ。
そのため、当初は自分と真逆の役柄に戸惑いもあったそう。それでも、自分なりの悪役・犯罪者役を突き詰めていき、役を掴んでいった。
2016年に『HiGH&LOW〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜』(日本テレビ系)でブレイクを果たしたのは、その誠実な役作りの結果と言えるだろう。LDHが仕掛けるメディアミックスプロジェクトとしてスタートした『HiGH&LOW』(通称、ハイロー)は、5つのチームが拮抗する“SWORD地区”を舞台に、男たちの友情と熱き闘いを描いている。
前田演じるSWORDの“O”鬼邪高校の轟洋介は当初数話だけの登場予定だったそうだが、ファンアートや二次創作で人気に火がつき、その後のシリーズでも欠かせない重要なキャラクターとなっていった。それは、不良とは思えぬインテリ風の涼しげな容姿もさることながら、前田の役の見せ方が巧みだったからに他ならない。
かつて自分をいじめていた不良という存在を狩るために自身を徹底的に鍛え上げた轟は実力こそあれど、不良の世界では孤高の存在で人望は薄かった。そんな彼が鬼邪高校の頭を張っていた村山良樹(山田裕貴)とのバトルや自分とは正反対な花岡楓士雄(川村壱馬)との出会いを通じて、人として成長していく過程で見せる様々な感情を豊かに映し出した前田。
『探偵が早すぎる』(読売テレビ・日本テレビ系、2018)でサイコパスな役を演じた時もそうだが、前田が演じていると、どの役も当たり前のようだがちゃんと人間に見える。決して記号的なキャラクターにはならない。その人の過去までも見えるような深みのある演技は、多くの人が理解しがたい犯罪者役にも真摯に向き合ってきた前田ならではだ。
彼が演じたキャラクターが二次創作的な広がりを見せるのも、そういう点にあるのだろう。前田が立ち上がらせる人間像は人生の一部を切り取ったストーリーだけでは完結しない余韻があり、その奥深くを覗きたくて人は想像の翼を広げるのだ。