差別を吹き飛ばすトレイシーの底抜けの明るさ
『ヘアスプレー』(2007)
――続いてご紹介いただくのは、『ヘアスプレー』ですね。1960年代のアメリカを舞台に、ビッグサイズの女の子がアメリカンドリームをつかむミュージカル映画です。
「これも、機内映画で数十回と見た作品ですが、最後まで全編ミュージカルで、登場人物が取っ替え引っ替えで歌って踊るので、とにかく飽きないんです。ただ、この作品の本当の魅力は、やっぱり主人公のトレイシーです。
彼女は、ダンステレビ番組『コーニー・コリンズ・ショー』に出演して踊るのが夢なんですが、番組側としては、ビッグサイズの女の子はそもそもお呼びでない。しかも、当時のアメリカは、差別が根強く残っていて、マイノリティに対する風当たりも今よりずっと強かった。でも、トレイシーは、ハンディキャップにもめげず、底抜けの明るさでオーディションに挑戦する。そして、最終的には、コーニー直々のスカウトにより、見事夢を叶えるわけです。
ニュースの街頭インタビューをきっかけに人生が変わってしまったという点では僕も似ていますが(笑)、なんでも果敢に挑戦する彼女の姿は見習いたいですね」
――この作品は、一見すると明るいミュージカル映画なんですが、実は随所にアメリカの影が描かれていますよね。
「そうなんですよ。例えば、作中に登場する『コーニー・コリンズ・ショー』では、月に一度設けられた“Negro Day(黒人の日)”にのみ、黒人の出演が許されています。つまり、それだけ、当時のテレビは白人が席巻していたんですね。
この言葉、日本語の字幕では「ブラック・デイ」と穏当に訳されているんですが、僕もアメリカで暮らしていたので、“Negro”という言葉の重みはある程度知っています。
日本で育った僕たちには、自由と平等をめぐる彼らの戦いは、なかなか理解が及ばないんですが、観るたび考えさせられますね」
――鉄平さんは、大学生活をアメリカで過ごされていますが、差別を肌で感じた経験はありますか。
「僕は2010年くらいまでロサンゼルスにいましたが、そこまで露骨な差別は経験してないですね。ただ、やっぱり東海岸とか南部に住んでいた友人は、嫌な体験をしたことがあるようです」
――一度アメリカに渡っている鉄平さんは、日本で純粋培養された日本人とはかなり違う景色が見えていると思います。鉄平さんが感じる日本人とアメリカ人の違いを教えてください。
「やっぱり日本人の場合は、細かいことにこだわりがちだと思いますね。あと、最近は、SNSで頭でっかちになっていて、差別や偏見に加担する人も多いと思います。その点、ア
メリカ人はどちらかというと大らかで、視野が広いイメージはありますね。まあ、僕も日本に戻ってきてから10年以上経ったので、だいぶジャパナイズされましたけど(笑)」