ホーム » 投稿 » コラム » なぜドラマの“設定かぶり”が起きるのか? 春の「記憶障害」に続く、夏のトレンドは? ドラマライターが徹底解説 » Page 2

いずれも初心者としての不出来な姿を描く

『西園寺さんは家事をしない』©TBS
『西園寺さんは家事をしない』©TBS

『マウンテンドクター』の真吾は第5話で息子と役で別れるシーンがあった。これが送り出したのか、送ったのかは不明だけど、息子を見つめる切なそうな表情は父だった。関係性がこれからどう変わって行くのか。ちなみに、他2人は幼い娘とのやり取り、子育てに圧倒的に不慣れだ。

 特に娘と急に二人暮らしになった楠見は、慣れない生活サイクルへの苦労が放送シーンに滲み出ている。彼は周囲から「天才!」と呼ばれるエンジニアなので、育児は全てデータベース化して消化しているつもりでいたのだろう。

 でも子どものご機嫌も体調もその日次第で大幅に変わる。毎朝娘の世話をして、フルタイムで勤務、お迎えに行って、夕飯の支度、寝かしつけに明日の準備と、エンドレス。第2話では眠った子どもを抱えて、夜中にコインランドリーに行くシーンも…。

 完全主義の楠見は誰にも頼らず育児をしてきたけれど、西園寺との同居によって少しずつ心がほぐれてきている。実の親子と大家という関係性を、ドラマの中では“ニセ家族”と呼んでいるのだが、西園寺が戸惑う場面があった。

「僕、思うんです。本当は“普通の家族”なんて存在しないんじゃないかなって。なのに僕らはその存在さえもしないものに振り回されてしまう」

 妻の死からバタバタと過ぎゆく時間で、余白ゼロだった楠見が、西園寺を元気づけるように回復している。パパに笑顔が宿っている。

 もう一人のパパ、夏は戸惑いの日々。普通の会社員として生活をしてきて、恋人とも幸せでいたのに突然、目の前に6歳の娘が現れたのだから仕方がない。20代の独身男性と小学生女子。

 字面を眺めるだけでも、まるで接点がない。親戚のお兄さんでもなく、突然の「パパ」なのだ。娘の南雲海(泉谷星奈)とは同居こそしていないものの、彼女が住む元恋人の実家にまめに通い、距離を縮めている。

 出かける時には何かあってもいいように母子手帳と、海の祖母から持たせられる。そんなことも気づかなかった夏。それでも自分のできることから始めようと、三つ編みの練習をする姿がいじらしい。

 いずれのパパも娘としっかり向き合うことに関しては、初心者。その不出来な姿を描くのがドラマの醍醐味だ。 

1 2 3
error: Content is protected !!