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金銭では解決できない苦労状況がドラマとして有効

『マウンテンドクター』 ©カンテレ
マウンテンドクター ©カンテレ

 これまでもドラマではシングルマザーが数多、登場してきたし、今でもその設定は普通に続いている。放送中の『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)では、松雪泰子演じる、今井夏が子ども2人を育てている。

 近年では『ファーストペンギン!』(日本テレビ系、2022)でも、奈緒演じる岩崎和佳がひとり息子を育てながら、地方の漁業を支えていくという物語。いずれにしてもドラマに登場するシングルマザーは経済的に困窮して、苦労をしているという設定が大半だ。

 ドラマでも映画でも、何か障害があることが物語の起点であり、ターニングポイントになる。これは至極、当たり前のこと。春ドラマで記憶障害のある登場人物が多く見られるという現象が起きた。これは何か障害をつけようとする演出が、たまたま重なっただけだ。

 ではなぜ今回、3人のシングルファザーが目立ったのかといえば、単に父親たちが経済的には困っていないけれど、幼い子どもとの生活に圧倒的に不慣れ。金銭では解決できない、苦労しているという状況がドラマの素材として有効だったからではないだろうか。

 対するようにシングルマザーが「かわいそう」「大変だね」と周囲から不憫がられる要素が時代と共に減少している。もちろん全母子家庭が同一は言い切れないが、育児もできて、生活費を稼ぐことができるのが“普通”と位置されるようになったのだから、ドラマの演出に使用されるのは違和感がある。そこで父子家庭に白羽の矢が立ったのではというのが、私の推測だ。

 厚生労働省の『母子世帯数及び父子世帯数の推移』の調査によると、ひとり親世帯は昭和58年から平成23年の30年間で、母子世帯数は約1.7倍。父子世帯数は約1.3倍に増加している。母子世帯数が数は圧倒的に上回るが、今後「ひとり親は苦労している」というドラマ演出にどう折り合いがついていくのだろうか。まずは夏ドラマにわいた、3人のパパに注目したい。

厚生労働省『母子世帯数及び父子世帯数の推移』の調査

(文・小林久乃)

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