ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » 4本とも全部傑作…実写版『キングダム』の“原作を超えた“神シーン5選。シリーズで最も心を揺さぶった名場面は? 考察&評価 » Page 3

嬴政と紫夏の回想シーン(『キングダム 運命の炎』)

女優・杏
女優杏Getty Images

 嬴政の過去を描いた、女商人・紫夏(杏)との出会いと死別のパート「紫夏編」が、『キングダム』シリーズ屈指の「原作超えシーン」として挙げないわけにはいかない。

 紫夏は、かつて、餓死寸前のところを闇商・紫啓に拾われ、育てられた戦争孤児だった。そして、自分と似た境遇を持つ嬴政を秦国に帰還させるべく命を懸けて戦うのだ。

 杏は、嬴政の回想シーンのみの登場だが、再現度もさることながら素晴らしい演技力で、このエピソードに原作以上のインパクトを付与してみせた。

 護送されている最中、過去のトラウマから取り乱した嬴政は、あらゆる感情どころか五感を失っている人間であることを紫夏に打ち明けた。

 それに対して紫夏は、「あなたは、ちゃんと感じていますよ。あの晩、一緒に月の輝きに感動したじゃありませんか」と言い、強く抱きしめる。

 セリフの中の「あの晩」とは、紫夏と嬴政が打ち解け合った前日の晩を指しており、そこで紫夏は「月がいつもより輝いて見えるのは、くじけぬように励ましてくれているのだと」と、かつて父からかけてもらった言葉を嬴政に伝えていたのだった。

 紫夏に抱きしめられ「私が付いています。一緒に秦に帰りましょう」と伝えられた嬴政は涙を流す。このシーンでは紫夏の愛によって感情を取り戻す嬴政の心の変化が見事に描かれている。

 このシーンをきっかけに、嬴政は「王」としての覚悟を決めるのだ。常に冷静沈着で堂々としている秦王・嬴政を形作ったのは、紫夏であると言っても過言でない。

 本作でメガホンを取った佐藤信介監督は、撮影を振り返ったインタビューで、杏に紫夏役をオファーした理由について、彼女の母親としての深い愛が決め手だったと明かしている。他人からの”愛”を知らない嬴政を優しく包み込むこのシーンは、キャスティングの妙が光った名場面だと言えるだろう。

 嬴政の人生のターニングポイントとなった、紫夏のようなキャラクターを生みだした作者・原泰久、杏にオファーを出した佐藤信介監督、そして見事に演じきった杏に、敬意を表したい。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!