三谷幸喜が仕掛ける「名演技を引き出す魔法」
三谷映画の1番の特徴が、豪華なキャストである。
『ラヂオの時間』の肩にセーターを掛けた、いかにも業界チックなプロデューサー役、工藤をつとめた唐沢寿明は常連だろう。
彼の威圧感は三谷映画でブレることなく生かされている。『みんなのいえ』(2001)で演じた鼻につくデザイナーは、まあイラつくこと、イラつくこと! 『ザ・マジックアワー』(2008)でも、1番いけ好かないパターンの大御所俳優を演じ、ワンシーンながら強烈なインパクトを放っている。
三谷監督に大いに遊ばれ新境地を開いたのが、佐藤浩市だ。
『ザ・マジックアワー』で、備後(妻夫木聡)に騙され、一匹狼の殺し屋「デラ富樫」を演じる売れない役者・村田役は世間に衝撃を与えた。
この映画の完成披露会見で、三谷監督が「誰が今まで佐藤浩市がトランポリンで上下運動を繰り返すことを想像できたでしょうか」とアピールしていたが、まさに、である。
予告編にも使われた、ナイフをベローッとなめて天塩(西田敏行)を威嚇するシーンも良かったが、やはりベストは備後に台本なしで芝居をすることを告げられた時の「オールアドリブかよ!」とのけぞる表情だろう。
私は勝手に映画史上に残る名演技だと思っている。驚きと呆れ、そして未知なる挑戦への喜びが混在し、彼のコメディーセンスが類稀なるものだと証明している。