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観客の心を優しく包み込むハスキーボイス

『スモーク』(1995)

映画『スモーク』の現場での一幕。(左から)ウィリアム・ハート、ハーヴェイ・カイテル【Getty Images】
映画『スモーク』の現場での一幕。(左から)ウィリアム・ハート、ハーヴェイ・カイテル【Getty Images】

監督:ウェイン・ワン
脚本:ポール・オースター
出演者:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ハロルド・ペリノー・ジュニア、フォレスト・ウィテカー、ストッカード・チャニング

【作品内容】

 ニューヨーク州ブルックリン。この町の片隅でタバコ屋を営むオーギー・レン(ハーベイ・カイテル)は、常連客ととりとめもない会話を交わしながら、日々を過ごしていた。

 常連客の中には、オーギーの親友ポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)もいた。ポールは作家として活躍していたが、数年前に妻が事故で亡くなって以来、スランプに陥っていた。

 そんなある日。ポールが、考えごとをしながら歩いていたポールは、あわや自動車に轢かれそうになり、ラシード・コール(ハロルド・ペリノー)という少年に助けられる。

【注目ポイント】

 現代アメリカ最高の作家ポール・オースターとタッグを組み、数々の名作を世に送り出してきた香港の映画監督ウェイン・ワン。そんな彼の最高傑作といわれる作品がこの『スモーク』だ。

 煙がかったニューヨークの風景に、ハーヴェイ・カイテルをはじめとする“激渋”の登場人物たち―。本作では、そんな苦み走った大人の雰囲気が画面全体から横溢している。

 そして、そんな本作に、より一層“スモーキー”な雰囲気を加えるのが、“酔いどれ詩人”トム・ウェイツの歌声だ。

 特徴的なしゃがれ声で、市井の人々の心の機微を歌いあげてきたトム。本作では、エンディング曲に1987年の彼の楽曲「Innocent When You Dream」(「Frank’s Wild Years」収録)が採用されている。

 物語の終盤。オーギーは、自身がタバコ屋を始めた頃のエピソードをポールに語る。

 ある日、ポルノ雑誌を万引きした黒人の少年を追っていたポールは、少年が落とした財布を拾う。そこには、少年のおばあさんと思しき人物の写真が入っていた。少年の境遇を慮ったポールは、それ以上追跡をやめる。

 それから数年後のクリスマスの夜。ふと少年の財布を取り出したポールは、住所を手掛かりに彼の自宅に行ってみる。すると、ドアを開け、盲目と思しきおばあさんが顔を出した。おばあさんは、少年をオーギーと勘違いし、次のように言い放った。

「きっと来てくれると思っていたよ、クリスマスの日におまえが私を忘れる訳がないもの!」

 そして、トムのソウルフルな歌声が流れ出し、エンドクレジットにオーギーの回想シーンがモノクロで重なる。

 本当に大切なものは煙のようなもの―。そんな本作のキャッチコピーが沁みる美しくも味わい深いラストシーンだ。

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