『台本に書いてあるから泣いているんだろう』と思われたくない
―――『海炭市叙景』では、内にあるものをさらけ出すのではなく、出さないでいかに表現するかっていうことをおやりになっています。三浦さんにとって良い芝居って何でしょうか?
「独学で演技について考えている時から思っていたのは、“上手くなりたくない”ということでした。『お芝居上手いですね』って言われても、褒め言葉ではなく、逆の意味にしか受け取れないんですよね。自分の中では、『わざとらしいですね』、『嘘ついていますね』という意味に聞こえるんです。そうじゃなくて、『ホントにこの人こういう人間なんじゃないか』って思ってもらえるような演技。それが、僕がお客さんとして作品を観ている時に、“面白い”と思う瞬間だったから」
―――「演技が上手いね」と言われたくない、というのは興味深いです。
「僕自身、同業者のお仕事に肯定的に言及する際に、『上手いですね』とは絶対に言わないかな。どちらかと言うと、『あのシーンはどうやって撮ったんですか?』とか、『どう思って演じたんですか?』って言われると嬉しいですね」
―――なるほど。
「もちろん、セリフを間違えずに言う技術は必要です。でも、僕としては、それが台本通りのセリフなのか、アドリブなのか、観ていてもわからないという領域までいきたい。例えば台本に“泣く”というト書きがあったら、撮影時に涙を流せるように、自分のコンディションを調整する必要がある。映画の撮影スケジュールは厳密なので、『じゃあ明日撮りましょう』というわけにはいきませんからね。僕の場合、その上で、『台本に書いてあるから泣いているんだろう』と思われたくないという気持ちが異常に強いんです」
―――自分自身を納得させるような演技を心がけていらっしゃるんですね。
「おこがましいかもしれませんが、結局演技をするときに真っ先に意識する相手が、お客さんじゃなくて僕自身なんですよ。客席には常に僕自身が座っている」
―――客席に座っている三浦さんが、「これだったら自分自身に拍手を送ってもいいんじゃないか」って思える作品はありますか?
「それは本当に数本じゃないですかね。近作だと『ケイコ 目を澄ませて』(2022 監督:三宅唱)。それと『アウトサイダー』(2017 監督:マーチン・ピータ・サンフリト)、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016 監督:真利子哲也)、『playback』(2011 監督:三宅唱)。それから『ニセ札』と『海炭市叙景』もですねえ。でも、なんだかんだ一番見返しているのは、キャリア初期の『IKKA:一和』と『きょうのできごと』かもしれない」
―――それはなぜですか?
「何もわかってないときに出演した作品だからです。当時は、カット割りはおろか、カメラがどこを狙っているのかもわかっていなかった。『きょうのできごと』は 35ミリフィルムで撮影した作品ですけど、テストの数は半端ないですし、本番のテイク数もめちゃくちゃ多かった。部屋の中で展開する群像劇なので、芝居場には複数の役者が入り乱れている。カメラが誰を狙っているのかまったくわからないまま、ひたすら一生懸命芝居に打ち込んでいました。演技プランもへったくれもないですよ。でもそういう純粋な気持ちは忘れたらアカンので、初心に返るじゃないですけど、当時の感情を思い出すために見返すことが多いですね」
およそ2時間に及んだインタビューでは、言葉を慎重に選びながら、出演作のエピソードや、瀬々敬久、行定勲、熊切和嘉など日本映画を代表する名匠たちとの交流秘話、自身の演技観について語ってくれた。言及された作品の多くは各種映像配信サービスで手軽に鑑賞可能。ぜひ本記事を手引きに三浦さんの出演作をチェックしてみてほしい。
(取材・文:山田剛志/映画チャンネル編集長)
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