『偶然と想像』にみる、古川琴音の演技の真髄
モデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影帰りのタクシーで、仲の良いヘアメイクのつぐみから最近出会った意中の男性との惚気話を聞かされる。どこか上の空な間合いで相槌ちを打ったかと思えば、口の悪い言葉を勢いよく発したり、つぐみの顔をじっと見つめたり、どこを眺めているとも言い難いぼんやりした目を見せたりと、捉えどころのない所作や表情が印象にのこる。
この車内で繰り広げられる会話のシーンは実に10分近くと長尺で映し出されるが無論、冗長には感じない。傍観者でなく友人Aとしてその場に居合わせたような感覚に陥り「しゃべり続けるつぐみに芽衣子は何を思っているのだろうか」とどこか緊張しながら、芽衣子の顔色を伺ってしまうのはなぜか。
話し手はあくまでつぐみだが、芽衣子に目を向けてしまう。古川琴音の魅力は、自然体でありながら、独特の存在感を放つ演技にあるとつくづく思うのだ。