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野島伸司が送る“貧乏エンターテインメント”

『家なき子』

女優の安達祐実
相沢すず役の安達祐実Getty Images

企画:野島伸司
脚本:高月真哉、いとう斗士八
演出:細野英延、萩原孝昭
出演:安達祐実、田中好子、保阪尚希、内藤剛志、菅井きん

【作品内容】

 入院中の実母を抱える相沢すずは、飲んだくれの養父の暴力と同級生たちの冷たい視線に耐える辛い日々を送っていた。

 そんなある日。いつも通り小学校に登校した彼女は、担任の片島智之に抵抗。母の手術費用を捻出するために盗みを働くが…。

【注目ポイント】

「同情するならカネをくれ!」

 平成期のドラマをかたる上で欠かせない脚本家がいる。野島伸司だ。

 1988年にフジテレビヤングシナリオ賞を受賞し、『君が嘘をついた』(1988)で連続ドラマデビューを果たした野島は、『101回目のプロポーズ』(1991)『ひとつ屋根の下』(1993)とヒット作の脚本を立て続けに担当。トレンディドラマの雄として名を馳せることになる。

 しかし、1993年の『高校教師』(TBS系)以降、作風を180度転換。『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994、TBS系)、『未成年』(1995、TBS系)と、いじめやレイプ、自殺、障がい者差別といったスキャンダラスな題材を扱うようになった。特に、障がい者への暴行を扱った『聖者の行進』(1998、TBS系)では、視聴者からの抗議が殺到。結果的にスポンサー降板の事態を招いた。

 そんな野島が企画をつとめた作品が、この『家なき子』だ。

 主演は、1993年の日本アカデミー賞で、弱冠12歳で新人女優賞を獲得した安達祐実。彼女のセリフ「同情するならカネをくれ!」は、当時の新語・流行語大賞を受賞し、最高視聴率37.2%を記録するなど、大きな話題を呼んだ。

 本作の最大のポイントは、安達が演じる主人公、相沢すずのキャラクターだろう。愛する実母の病気を治すためなら、盗みも偽証も、ときには放火だっていとわない―。そんな安達のなりふり構わないダークヒーローっぷりが、多くの人の心をつかんだのだ。

 なお、本作は、フランスの同名童話が名前の由来であることからもわかる通り、どこかおとぎ話のような展開を特徴としていた。これは、本作が放送された1994年には、まだ日本全体に余裕があり、貧困が「遠い国の出来事」であったことを示している。

 しかし、2000年代に入り、日本がいよいよ貧しくなってくると、『闇金ウシジマくん』(2010)や『東京貧困女子。』(2023、WOWOWプライム)のように、貧困がよりリアルなタッチで描かれ始める。「家なき子」の世界がより現実味を帯びてきたのだ。

 「同情するならカネをくれ」―。この言葉が、今後、日本人全員の合言葉にならないことを願うばかりだ。

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