トラウマを生み出した陰惨な脱出劇
『ミザリー』(1990)
監督:ジム・シェリダン
脚本:ジム・シェリダン、テリー・ジョージ
原作:ジェリー・コンロン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ピート・ポスルスウェイト、エマ・トンプソン
【作品内容】
ベストセラー小説家『ミザリー』シリーズで広く知られる人気作家 ポール・シェルダン(ジェームズ・カーン)。ある日、自動車で雪道を走っていた彼は、転落事故を起こしてしまう。瀕死の重傷を負っていたところを、近くに住む元看護師の女性(キャシー・ベイツ)に救われるのだが…。
【注目ポイント】
スティーブンキングの同名小説を『スタンド・バイ・ミー』(1986)のロブ・ライナー監督が映画化した作品である。
主人公の作家ポールは、どのように脱出するのか?
彼は、すでにハンデを背負っている。
周りに人がいない山小屋の小さな部屋に閉じ込められているし、車椅子で両足が使えないし、雪が深くて簡単に街に助けを求められない。
この3つのハンディキャップを乗り越えるのは、至難の業である。さらに見つかったら何をしでかすかわからない”アニーの気性の荒さ”も加わる。
観客はこの状況からポールが脱出するのを固唾を呑んで見守ることになるのだが、何をやってもアニーからは逃げられない。注射を打ったり、閉じ込めたり、極めつけは歩けないようにハンマーで両足を破壊する。
最終的に彼を救いにやってきた保安官も殺され、ポールはアニーから力づくで逃げるしかなくなるのだ…。このシーンはいつまでも記憶に残り続ける、映画史に残る名場面だろう。かつては地上波で頻繁に放送されていた本作。トラウマを植え付けられた人も少なくないのではないか。
熱狂的なファン・アニーを演じるキャシー・ベイツの演技が、とにかく強烈な印象を与える本作。SNSやYouTubeなどで誰でも発信できる今観ることで、より身近な話に感じられるかもしれない。
ところで、主人公が車椅子というシチュエーションは、映画『RUN』(2020)も想起させる。
「部屋に閉じ込められる」「渡される薬が実はなんの薬なのかわからない」「逃げられないように注射を打たれる」状況が、似ているのだ。
ちなみに『RUN』で主人公の女性が薬局に行き、母親に飲まされている薬の成分を聞くシーンの担当の薬剤師の名前は、ミセス・ベイツ。また、母親がその薬剤師に彼女と何の話をしたのか確認するシーンでは、薬剤師のファーストネームを「キャシー」と呼んでおり『ミザリー』へのオマージュが込められた作品になっている。両作を見比べてみても面白いかもしれない。