ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » なぜ松下洸平の演技は心を揺さぶるのか? 視聴者を虜にする魔法。ドラマ『放課後カルテ』で光る、松下洸平の演技の魅力を解説 » Page 2

松下洸平の魅力に取り憑かれた『いちばんすきな花』

『放課後カルテ』第3話©日本テレビ
『放課後カルテ』第3話©日本テレビ

 松下の代表作にまず挙がるのは前述の『最愛』だろう。松下は、無骨な男臭さもありながら、朝宮梨央(吉高由里子)を常に思いやる優しさも持つ刑事役・宮崎大輝を熱演。刑事らしい鋭い目つきと、信頼する人の前でだけ発する温かい声色を併用することで、鮮やかなギャップを生み出し、多くの人を“大ちゃん沼”へと誘った。

 だが、個人的に一気に松下の魅力に取り憑かれたのは、2023年の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)での春木椿役だ。

 椿は頼まれ事を断れない、絵に描いたような「いい人」で、松下のパブリックイメージとも重なる部分は大きい。一方で、この先会うことがないと感じた人に対しては気兼ねなくおしゃべりとなり、たばこを吸わないのに喫煙所を訪れるといった奇妙な部分も併せ持っている。

 文字だけでキャラクターを説明すると、一見いびつな人間が浮かんでしまうのだが、松下というフィルターを通すことで春木椿はくっきりと浮かび上がってくる。

 とりわけ椿を魅力的なキャラクターたらしめたのは、その無自覚なかわいさだ。松下は黙っているとクールに見えやすい塩顔であり、例えば前述の宮崎大輝役は、そのような側面も含まれていた。

 だが、椿からはそういった要素が一切排除されている。単純に髪型をきっちりと決めていないビジュアルの影響もあるが、柔らかな声のトーンと包み込むような雰囲気で佐藤紅葉(神尾楓珠)との距離を縮めるシーンはドラマの癒やしとなっていた。

 一方で、椿はただかわいい、優しいだけのキャラクターではない。幼い頃から枠から出ないように「いい子」であろうと努めてきており、実際には風変わりな一面も持つ。松下は、生きづらさを吐露する場面では喋りの速度を上げて椿の多面性を表現しており、改めて彼の高い演技力に心を奪われた。

1 2 3
error: Content is protected !!