「自分がプロで実現できなかった夢を託せるか」選手を見る独自の視点
ーーー監督とスカウトの関係についてもうかがいたいのですが、特に星野仙一さん、落合博満さんはそれぞれ、スカウトの立場で見るとどういう方でしたか。
「星野さんはドラゴンズの生え抜きで、すごい選手でした。だからチームを強くするにはどうすればいいのか。その考えをずっと持っていましたね。若くて活きのいい選手をチームの将来のために育てあげる。その意識がすごく強い方でした。
それもあって素材重視。1歳でも若くていい選手を獲って、時間をかけて育てて次に備える。『監督は自分がやめたときに、選手が誰もいない状況だけは避けないといけない。そして次の監督が花を咲かせる』。これは最初に監督に就任された際に、開口一番に言われました。
『目先のことだけを考えるな。ドラゴンの将来、常に5年先、10年先を考えて動かなあかん。それがスカウトの仕事や』とも。星野さんはドラゴンズを絶対に立て直す、常に勝てるチームにすると考えていた。獲得した選手はなにがなんでも育てあげるという強い意思を感じましたね。特にいずれ主力になるであろう選手には本当に厳しく指導されていました」
ーーー落合さんは逆に、即戦力至上主義ですか。
「いえ、即戦力が好きというより、チームを勝たせることが監督の最大の仕事だと考える方でしたね。『高校生にもすぐに一軍で使える選手はいるけれども、プロの世界でレギュラーを張るには体力を一人前にしないといけない。いくら素材のいい高校生でも、その体力をつけるには3、4年かかる。体力の心配をしなくていい選手を獲ってくれ』とよく言われていました。
大学、社会人出身の選手は試合に出ながら体力づくりができるけれど、高校生はイチから。その時間が惜しいと考えていたと思います。契約社会なので、監督である以上、成績がすべて。だから所属する選手は全員、戦力であるべきだと思っていたのではないでしょうか」
ーーーおふたりの違いがよくわかりました。では最後に、スカウトに必要な力を教えてください。
「あまり考えたことがありません。僕は選手あがりのスカウトですが、たとえば交渉なんて自分にできるのだろうか、と思いながら仕事を始めました。でも実際に現場に出ると、正直であればそれほど苦労は感じなかった。
ただ選手を見る視点は独自のものがあったかもしれません。自分が現役時代にできなかったこと、失敗したこと、苦手だったこと、それがこの選手はできるかだろうか。そう考える場合が多かったと思います。もちろん素材の良し悪しは見ますよ。そのうえで自分がプロで対応できなかったことをうまくやれそうな選手を探していましたね。
平たく言えば、自分がプロで実現できなかった大きな夢をその選手に託せるかどうか。特にスカウトを始めたばかりの時期に担当した選手は、そういう観点で見るようにしていました」
【著者プロフィール:三谷悠(みたに・ゆう)】
ライター・編集者。1981年、愛媛県出身。大学卒業後、2007年よりフリーランスでの活動を開始。プロ野球やJリーグのオフィシャルサイトや刊行物の業務に従事。スポーツを中心に多様なジャンルで執筆や編集を行う。『ラグビーマガジン』『ラグビーリパブリック』(ともにベースボール・マガジン社)などに寄稿。『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ/藤島大著)の聞き手、構成を担当。
@you96014929
書籍情報
『星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録』
定価:1980円(本体1800円+税)
「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」
スカウト歴38年
闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かす
ドラフト舞台裏
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