ロックレジェンドのキャスティングが難しい?
『デトロイト・メタル・シティ』(2008)
監督:李闘士男
脚本:大森美香
出演:松山ケンイチ、加藤ローサ
【作品内容】
メタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」のフロントマン「ヨハネ・クラウザーII世」こと根岸崇一(松山ケンイチ)の正体は、ポップ・ミュージックを愛する平凡でシャイな青年だった。自分の思いとは裏腹に根岸は、メタルの才能を発揮し、注目を集めていく。
【注目ポイント】
田舎から上京してきて、オシャレなポップ・ミュージックを好むナヨナヨな音楽青年・根岸崇一。しかし、彼はデスヴォイスを駆使するヘヴィーメタルミュージックの才能があり、地獄から来た悪魔という設定の、「デトロイト・メタル・シティ(DMC)」というバンドのフロントマン「ヨハネ・クラウザーII世」と化してしまった。
自分が本来やりたい音楽では鳴かず飛ばずの根岸だが、クラウザーとしてステージに立つと、信者(ファン)たちのカリスマとなってゆく…といった、ギャグ音楽漫画が原作なのだが、実写版では、根岸&クラウザー役の松山ケンイチが素晴らしいハマリ役ぶりを見せている。
本作が公開される直前、松山は『デスノート』(2006)の「L」、『神童』(2007)の「菊名和音」に扮し、漫画原作の映画を次々と成功に導いてみせた。本作では、二次元のキャラクターを具現化する天才である松山の、より進化した演技が堪能できる。国内興行収入23億4000万円のスマッシュヒットは、松山の熱演の賜物だろう。
ヒットの背景にはもちろん原作の力もあるだろう。原作者である若杉公徳は、そもそもヘヴィーメタルにそれほど造詣が深いわけではなく、イメージのみで「メタル=悪魔」という図式を描いていたという。そんな、軽いノリが本作の魅力であり、馬鹿馬鹿しいストーリーテリングの妙が、へヴィーメタルをよく知らない人にも、刺さったのではないだろうか。
また、クラウザーの前に立ちはだかるラスボス的な存在であるジャック・イル・ダーク役に、現在も活動中のアメリカのレジェンドロックバンド・KISSのジーン・シモンズをコンバートした点も上手く、公開当時「そりゃ、ヒットするわ!」と感嘆したのだった。
興行的な成功を収め、ファンからの支持も十分に取り付けた本作だが、なぜ、続編は作られなかったのか?
おそらく本作で、ラスボス役にKISSのジーン・シモンズをキャスティングしてしまった以上、続編を製作するとなると1作目と同等、もしくはそれ以上のロックレジェンドを登場させないと、ファンは納得しないし、続編として成立しない…と製作陣は判断したのではないだろうか。言うまでもなく、そのハードルを超えるのは容易ではない。
もし、続編の計画があるとしたら、ボン・ジョヴィ、メタリカ、エアロスミスといった大御所が、出演を快諾していただくことを望みたいところだ。