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社会問題に鋭く切り込む姿勢

稲垣吾郎
稲垣吾郎【Getty Images】

 第一にNHKは日本の社会課題に鋭く切り込んだ作品が多い印象だ。なかでも話題になったのが、2024年4月クールに“ドラマ10”枠で放送された『燕は戻ってこない』。桐野夏生の小説を原作に、日本でまだ法整備が整っていない「代理出産」をテーマに掲げた。

 代理出産に関しては、金銭的対価と引き換えに妊娠や出産にともなう身体的・精神的負担を第三者である女性に課すという点から批判の声も多い。しかし、本作は誰のことも安易に断罪しないフラットな視点をもって代理出産について描き、それと切っても切り離せない女性の貧困や不妊治療の現実を浮かび上がらせることで観る人に自分事として受け止めさせた。

 貧困を裏テーマにしたクライムサスペンスは多く、松坂慶子が主演を務めた土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』(2022)も身寄りのない独居老人が将来への不安から、衣食住が保証された刑務所に入ることを目標に掲げて“ムショ活”に励む物語だ。

『燕は戻ってこない』は石橋静河演じる主人公が向こう見ずな性格でハラハラさせられることも多かったが、本作の場合、主人公が不器用で愛らしいおばあちゃんゆえにクスッと笑えるコメディになっており、全体的にハートフルな雰囲気が漂っていた。

 同じ社会問題を扱っていても作品によってカラーは様々で、エンターテインメントとして優れている点はNHKドラマの最大の強みだ。

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