中には地上波初の試みも
現在放送中の土曜ドラマ『3000万』でも、生活に苦しい夫婦が事故相手の所持していた3000万を自分たちのものにしようとした結果、思いもよらぬ事態に巻き込まれていく様が描かれている。驚くべきはここ最近、巷を騒がせている闇バイトの問題をいち早く扱っている点だ。
本作は2022年に始動した“脚本開発チーム”WDRプロジェクトから生まれた作品で、考案されたのは少なくとも一年以上前のはず。その早さもさることながら、電話でターゲットの情報を抜き出す“掛け子”の描写や、実行犯ではないがゆえの罪の意識の低さなど細部にわたってリアリティがある。
2022年にはよるドラ『恋せぬふたり』でこれまで透明化されてきた他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない「アロマンティック・アセクシュアル」の主人公たちを描いたが、これも日本の地上波初と言われており、なおかつ彼らが抱える悩みや葛藤と真摯に向き合った。
NHKは普段から社会の動向に高くアンテナを張って、緻密な取材をもとにニュース番組やドキュメンタリーを制作している。そのため参考資料が多く、社会問題の表面をなぞったようなものではなく深部にまで潜り込んで、内容の濃い作品が作れるのだろう。
その上でただ視聴者の不安を煽るだけではなく、何かしらの希望を与えてくれる点も高く評価したい。『団地のふたり』は同じ団地で育った幼なじみである50代独身女性のふたりが主人公。
夫も子供もいない、お金もさほどない、社会的にすごく成長しているわけでもない。ないない尽くしだけれど、日常生活の中にある小さな幸せを大事にし、高齢化が進んでいる団地の人たちと支え合いながら生きていく姿が描かれている。
個人の価値観が多様化する中、必ずしも結婚して子供を持つことが当たり前ではなくなった。結婚“できない”ではなく結婚“しない”と決め、独身生活を謳歌している人も大勢いる。
その一方で老後はどうするかという問題はあって、なおかつ不確実性の高い今の時代、将来に対して不安を感じている人も多い。そんな中で、NHKドラマは固定観念にとらわれず、さまざまな境遇に置かれた主人公たちの物語を通して、これからを生きるためのヒントを与えてくれる。そういうところが、特にミドルエイジの女性視聴者から支持されている所以なのではないだろうか。