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余りにも非情な物語

シーズン15『フェイク』(第7話)

反町隆史
反町隆史Getty Images

放送日:2016年11月23日
脚本:徳永富彦

 こちらの選出理由は”救う方法の無い悲しさ”だ。

 2人の小学生男児が誘拐され、その内の高木翔太君が遺体で発見される。

 母親の美奈子(安達祐実)は息子の遺体を見て悲しみに打ちひしがれるも、帰宅中に何故か1人で笑い自宅でも死んだはずの息子と会話をし始める。

 右京は捜査本部へ入り、冠城は美奈子をマークしそれぞれのアプローチで犯人を追う。

 犯人グループは警察を翻弄しながらもう1人の人質である中山広斗君の身代金を奪おうとし、美奈子は中山家に菊の花束を送りつけたり子供用のお菓子を買ったりと捜査班を翻弄する。

 そして右京の活躍で犯人グループは確保され、広斗君も保護となる。

 では美奈子の奇行は何だったのか…。

 真実は文字通り”奇行”で、美奈子は最愛の息子である翔太を失った事を認められず広斗が死んだと思い込み中山家にお見舞いとして花束を贈り、翔太と話したりお菓子を買っていたのも全て彼女が見ている幻の息子に向けてだった。

 中山家と違い高木家は貧乏で、美奈子は一生懸命働いてそれでも足りずに売春でもお金を稼いでいた。

 そこまで翔太を愛していた美奈子にとって息子の死は到底受けいれられなかったのである。

 そんな美奈子に冠城は翔太の遺品を渡すと共に改めて現実を伝える。

 翔太が見えなくなり発狂する美奈子だが、再度翔太が現れると強く強く彼を抱きしめる…傍目からには自分を抱きしめているようにしか見えなくても。

 杉下右京ですら今すぐに救うのは無理だと断念する圧倒的な悲しさ。

 誘拐事件の緊張感あるサスペンスもあるが、主題は息子の死を受け入れられず狂う母親という余りにも非情な物語だ。

 事件は解決したがそれでも美奈子は救われないし救えない。

 心を守る為に現実とは違う世界を作る事は決して責める事は出来ないが、裏を返すと彼女が幻に縋る間は本物の翔太君は決して報われない。

 結論としては時間をかけて立ち直るのを見守るしか無いというのも致し方無い。
 
 余談だが、美奈子を圧巻の芝居で演じきった安達祐実は当時は第二子の出産を終えてから久々の現場復帰でもあった。

 そんな彼女にこのような役を任せるのは『相棒』という作品や安達祐実という女優のプロフェッショナル感を強く感じさせられる。

 本作以外にも『相棒』には観ると犯人や被害者に同情して胸が苦しくなるような物語が数多くある。

 それはひとえに”人間”を真正面から描いているからに他ならない。

 明るく楽しい作品も大いに結構で私自身も好きではあるが、偶にはあえてツラく厳しい現実を突き付けてくる作品を観て物語の感慨に浸る瞬間も悪く無いだろう。

(文・Naoki)

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【了】

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