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史上もっとも後味の悪い日本映画は? 鑑賞注意の鬱邦画5選。悲惨な結末だけど…何度も観てしまう珠玉の作品をセレクト

なぜ人は悲劇を愛するのか。この問いに、哲学者アウグスティヌスは『告白』で次のように答えている。「人は誰でもみな、自分では不幸になりたくないが、他人に憐みをかけることは喜ぶ。(…)そのために悲しみを愛するのだ」―。今回は私たちの憐みを引き出す「鬱な日本映画」をセレクト。比較的近年の作品を中心に紹介する。※この記事では物語の結末に触れています。(文:村松健太郎)

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【著者プロフィール:村松健太郎】

脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

美しさと残酷さが同居したクライマックス

『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)

女優の蒼井優
女優の蒼井優Getty Images

監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演:市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩、大沢たかお、稲森いずみ

【作品内容】

 田園が広がるとある地方都市。この地に暮らす中学生の蓮見雄一(市原隼人)は、同級生の星野修介(忍成修吾)から万引きや置き引きを強要され、鬱屈とした日々を送っていた。

 逃げ場のない学園生活。そんな彼の唯一の救いは、音楽チャートで1位を獲得するほど人気のカリスマ的アーティスト、リリイ・シュシュの歌を聴くことだった。

【注目ポイント】

『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1995)や『Love Letter』(1995)、『スワイロテイル』(1996)など、若者の繊細な心情を映し出した美的な世界観で「新世代の映画作家」として絶大な支持を集めた岩井俊二。『リリイ・シュシュのすべて』は、岩井自身が手がけたインターネット小説を原作にした青春映画である。

 ファンタジックな作風はアクが強く、批評家筋からは厳しい意見も多かった岩井。そんな中で発表された本作は、一転して批評面でも注目を集め、岩井俊二が“遺作にしたい”と語るほど思い入れの強い映画となった。

 本作の最大の特徴は、当時ほぼ無名であった10代の若者たちが織り成すリアリティだ。ふとしたきっかけで、いじめる側といじめられる側に分かれていく生徒たち。作中では、いじめや恐喝、万引き、援助交際、レイプ、殺人、自殺といった社会の闇の部分がこれでもかと描かれている。

 人前での自慰行為や丸刈り、田んぼでの全裸遊泳といったショッキングなシーンが立て続けに描かれる本作で年若い出演者たちは、体当たりの演技が求められた。

 主人公・雄一を演じた市原隼人、心優しい青年から冷酷ないじめっ子へと変貌する星野役の忍成修吾、星野から売春を強要される薄幸の少女・津田詩織を演じる蒼井優など、本作に出演したキャストの多くがその後日本映画界を代表する俳優として羽ばたいていった。

 そんな本作のラストシーンは、美しさと残酷さが同居したきわめて印象深いものだ。

 星野の仲間に強姦され、自身で髪の毛を剃った久野陽子(伊藤歩)が音楽室で1人ピアノを弾いている。彼女を救えなかった自責の念に駆られている雄一は美しいピアノの音色に耳を傾ける。ちなみに、彼はその前のシーンで星野を刺殺している。果たして雄一はどんな心境で久野の演奏を聴いているのだろうか。映画はそれを明らかにしないまま、幕を閉じる。

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