井浦新の出演作はなぜ“特別“なのか? 名作『アンナチュラル』などから読み解く存在感を解説。稀有な魅力の正体は?
text by かんそう
現在放送中の菜々緒主演ドラマ『無能の鷹』(テレビ朝日系、2024)に出演し、10月に公開された映画『徒花-ADABANA-』では主演を務めた井浦新。今回は、陽だまりのような役から、冷たい印象の役まで幅広くこなす井浦新の魅力を、これまでの出演作品を振り返りながら徹底解説する。(文・かんそう)
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【著者プロフィール:かんそう】
2014年から、はてなブログにてカルチャーブログ「kansou」を運営。記事数は1000超、累計5000万アクセス。読者登録数は全はてなブログ内で6位の多さを誇る。クイック・ジャパン ウェブ、リアルサウンド テックなどの媒体でライター活動を行うほか、TBSラジオで初の冠番組『かんそうの感想フリースタイル』のパーソナリティも務め、2024年5月に初書籍『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を出版した。
映画『蛇にピアス』が与えた鮮烈な印象
ドラマ『無能の鷹』で鷹野ツメ子の教育役・鳩山樹を演じている井浦新。
何をどう考えても無能の鷹野に対しても決して怒ることなく長所を伸ばそうと苦心するまさに「優しさの塊」としか言いようがない男を演じているのだが、井浦新にピッタリな役だと感じると同時に、まったく別の人間にも思える。それが本当に恐ろしい。
日だまりのように温かい役から、氷のように冷たい役まで完璧にこなす、その幅の広さに目眩がしてくる。井浦新の魅力を改めて考えたい。
私が初めて井浦新、いや、まだ英語表記で活動していた「ARATA」完全に認識したのが2008年公開の映画『蛇にピアス』だ。全身にタトゥー、顔中にピアスを纏わせ、他人が苦しむ顔に興奮するサディストの彫り師・シバという役柄は、当時19歳の若者だった私にとてつもない衝撃を与えた。
文字にすると「異常」としか思えないその男を、ARATAは恐ろしいほど完璧に演じていた。恐怖の中に見え隠れする普段、普通に生活していたら絶対に出会うはずのない男に圧倒的な「リアリティ」を感じてしまったのだ。