幸せな時間に訪れる唐突な「終わり」
千紗子には忌まわしい過去があった。実の子どもを水難事故で失っていたのだ。それが遠因となり離婚した千紗子は、心に空いた穴を埋めるように、拓未に愛情を持って接する。
拓未もそれに応えるように、千紗子を「お母さん」と呼ぶ。さらに、孝蔵を「おじいちゃん」と呼び、困惑する孝蔵をヨソに、仏像作りを教わるなど懐いていき、3人は“家族”となっていく。
孝蔵の認知症は悪化する一方で、粗相を繰り返すようになる。服を脱がせて、体を洗い流す千紗子。かつては教師で、厳しかった父親の情けない姿に、千紗子は思わず泣き崩れてしまう。
弱っていく父の介護と、見ず知らずの少年の育児と家事、さらには仕事…。1人の女性にとっては、あまりにも多くのことを背負い込んでしまっていたのだ。そんな千紗子を、親身となって見守る亀田の存在が、決壊しそうな彼女の心を優しく包む。
久江とその息子との交流を通じ、友人もでき、充実した日々を送っていた拓未。しかし、そんな幸せな時間は、ある日突然、終わりを告げる。
絵本作家として取材を受けていた千紗子の前に、その雑誌記事の切れ端を手に、安雄が現れる。安雄は息子を連れ帰るために暴れ出し、孝蔵を蹴り倒し、千紗子につかみかかる。
その瞬間、拓未が彫刻刀で安雄の背中を刺す。そして瀕死の安雄に対し、拓未が持っていた彫刻刀を手に取り、千紗子がとどめを刺す。