“嘘”をつき通すことで幸せな時間を実現させていく物語
場面は裁判所に移る。千紗子は、母親から一転、殺人犯となる。
嘘に嘘を重ねて築いてきた自分を悔い、久江との面会でも、責任の全てを被る覚悟を示す。それに引き換え、自分の実子を“捨てた”にも関わらず、少年の母親は被害者面に徹する。それは見る者をイライラさせるほどだ。
ところが裁判が急展開する。第2回公判で、拓未自身が証人出廷するというのだ。
ラストシーンでは、拓未が証人として発言するのだが、その驚愕の発言に、見ている者全てが心を揺さぶられ、涙を抑えられないはずだ。
本作は、ネグレクト、介護、育児、隠蔽などに加え、家族とは、血縁とは、真実の愛情とは何かを問う物語だ。
そして、信念を貫くため、タイトルの“かくしごと”と原作タイトルの“嘘”をつき通すことで、わずかな時間であっても、幸せな時間を実現させていく物語でもある。
主人公の千紗子を演じる杏はもちろん、奥田瑛二は痴呆症の老人・孝蔵を演じ、74歳にして、これまでにない新味を見せている。
悪役イメージが強い酒向芳演じる亀田の深い愛も、本作の重要なパートを担っており、安藤政信と木竜麻生が演じる毒親ぶりもハマっていた。
しかしながら、本作で最も輝きを見せたのは、拓未(洋一)を演じた13歳の子役・中須翔真だろう。
NHKの朝ドラでは、『スカーレット』(2019)、『おちょやん』(2020)、『舞いあがれ!』(2022)と3作にわたって出演している実績は、その演技力に裏打ちされたものだろう。
かわいらしい外見に加え、本作では“裏の一面”もある難役を完璧に演じ、迫力すら感じさせ、本作の“MVP”といっても、過言ではない存在感を見せた。
そして、これだけ多くのテーマを盛り込みながら、中弛みさせることなく、芯の通った物語を構築した関根光才の手腕も光る。会話劇のみならず、映像や、挿入される音楽の美しさも、本作を彩っていた。
千紗子のしたことは確かに重罪だ。そうと、頭でわかっているのだが、自分だったらどうするか…。そんな大きな問いを与えてくれる作品だ。
(文・寺島武志)
【作品概要】
脚本・監督:関根光才
出演:杏、中須翔真、佐津川愛美、酒向芳、木竜麻生、和田聰宏、丸山智己、河井青葉、安藤政信、奥田瑛二
原作:北國浩二「噓」(PHP 文芸文庫刊)
音楽:Aska Matsumiya
主題歌:羊文学「tears」F.C.L.S.(Sony Music Labels Inc.)
製作幹事:メ~テレ、ホリプロ
企画・制作:ホリプロ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024「かくしごと」製作委員会
2024 年/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/128 分
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