①食事を通して日本社会を観察する
『きのう何食べた?』では、タイトル通り食事が物語のメインとなっており、ほとんどが食卓のシーンでストーリーが進行していく。
西島秀俊扮するシロさんは料理好きで、実際に調理している様子もあり、手順や分量を心の声で説明してくれているので、視聴者たちも料理の参考にすることができる。
通常、ドラマに出てくる食事といえば、豪華なごちそうをイメージするが、今作に出てくる料理は、前日の残り物をアレンジしたもの、薬味いっぱいのそうめん、鮭の切り身を炊飯器にそのまま入れただけの炊き込みご飯など、疲れている時でも作れる、簡単なものばかりだ。
シロさんは、特売品を狙ってスーパーをはしごし、1円単位の無駄遣いも許さない程の倹約家だ。そんな彼の作る料理は手間がかからず、誰もが真似しやすい庶民的なもの。また、調味料もどのご家庭にもあるような、ごく普通のものを使っているため、観ているだけで「明日はこれを作ってみよう!」というマインドになり、献立を考える時間も省いてくれる。
作中に登場する料理は、視聴者の胃を刺激し、料理への意欲をかき立てるのみならず、物語の鍵となっている点も見逃せない。
例えば、上述したようにシロさんは倹約家であり、食パンをスーパーで買わず、わざわざパン屋で購入する。しかしパン屋の店長は、シロさんがゲイを隠していた時代に交際していた元カノ。それにケンジがやきもちを焼いて詰め寄るなど、この作品において食事は物語を進める上で必要不可欠な存在である。
生きる上で欠かせない「食事」を物語の中心に据えている本作だが、言うまでもなく、決して単純な「メシものドラマ」ではない。食事を通して、登場人物の内面、人間関係、ひいては日本社会を観察していくところに本作の素晴らしさがある。
ちなみに、作中に登場した料理のレシピをまとめたサイトもあり、気になった方は検索してみてほしい。